荒波少女

□第33話 ついに来た!エイリア学園!!
3ページ/7ページ

逃げてるだけじゃどうにもならない。そんなことくらい分かってる。けど、逃げずにはいられなかった。


皆が知り得ないことを知ったあの日から、嘘をつき貫かなければならない覚悟はしていた。いや、してるつもりだった。


いざ追及されて、焦って、頭の中真っ白になって、怖くなって…ちっぽけな覚悟なんか投げ出して、皆から逃げた。


……最悪だ。


走って、走って、走った。息が上がって苦しくなっても足は止めない。それでも段々スピードは落ちて、膝に手をついて立ち止まった。


なんて言えばいい。彼らがエイリア学園になる前会ったことがあって、それで実際に会って話して、それから、それから……、



「(話したところで、どうなんだろ…)」



大事なことをひた隠ししてた癖に、皆から冷たい目で見られたくない。そんなわがままで臆病な自分に、嫌気がさした。


結局のところ、ただの自己満足に過ぎないんだ。


ヒロトはあんなサッカーをして、楽しいのかな。人を傷つけるようなプレーをしても、得られるものなんて何もないのに。


いや、楽しい筈なんかない。この戦いに勝てば、きっと思い出してくれる。……今のあたしと一緒に戦ってくれる人がいるかなんて、分からないけれど。


中途半端だなあ、あたしって。雷門とエイリア、一体どっちの見方なんだか。欲張りで、わがままだ。


気づけば河川敷のグラウンドの近くに来ていた。決戦は明日。少し練習しようと足を向けてみると、そこにはしろ君がいた。


『エターナルブリザード』を何度も打つけど、ゴールにたどり着く前に威力は落ちて、地面に転がってしまう。


そこに豪炎寺がやってきて、声をかけた。あたしのいる場所からは会話の内容は聞こえないけど、2人は気づかないだろうから好都合だ。


やがて2人はボールの奪い合いを始めた。奪っては奪い返しの繰り返し。高レベルな駆け引きに、やっぱり凄いな、としみじみ思う。



「…雨?」



顔に何かが当たって空を見上げてみると、黒い雲が空を覆っていた。夕立だろうか、暫く降りそうだ。


帰ろうと踵を返した時、稲光が空を駆け抜けた。割りとそう遠くはない場所に落ちたのか、轟音が鳴り響き、あたしはハッとする。


あの音、まるで雪崩が起きた時みたいだった……!まさかと思ってグラウンドを見ると、震えながら踞るしろ君が見えた。


何を言われるか分からない。けど、しろ君を放っておく訳にもいかない。無我夢中で駆け寄って、声をかけた。



「しろ君!」

豪「!、…美波か」

「…とりあえず今は、雨の当たらない所に行こうよ」

豪「…そうだな」



豪炎寺が肩を貸して移動して、橋の下で雨を凌ぐ。かなり強くて当分はやみそうにもないから、暫く雨宿りになりそうだ。


震えているしろ君の背中を擦りながら豪炎寺を見ると、目が合って咄嗟に反らしてしまった。



豪「美波」

「…何?」

豪「怖いか」

「何が」

豪「隠していた事は、そんなに言いづらいことか」

「………うん、言いづらい」



エイリア学園は実は普通の人間で、監督は親玉の娘で、あたしはその親玉と面識がある。


いつかは言わなきゃいけないんだとは思っていただけで、結局それを実行に移そうとしたことはない。


何で言わなかったのかと責められる事なんて、目に見えてるから。だから、怖かった。



「…あ、のさ」

豪「何だ」

「豪炎寺はエイリア学園のこと、恨んでるよね」

豪「…」

「夕香ちゃんを人質に取られたんだし、恨んで当然だよね」

豪「…美波」

「けど、出来れば、無茶苦茶で都合のいいこと言ってるんだろうけど、謝られたら許して欲しいなー…とか」

豪「……」

「ほら、あんなに凄いんだしさ!一緒にサッカー出来たら楽しいんだろーなー…」

豪「……」

「…とか……」

豪「…グランの事を気にしているのか?」

「え?…や、グランだけじゃなくて、レーゼもデザームもガゼルもバーンも、皆」

豪「そうか」

「…………あのさ、」




エイリア学園があたし達と同じ人間だって言ったら、



どうする?










口から零れかけた言葉は、轟音に掻き消された。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ