荒波少女
□第32話 炸裂!ファイアブリザード!!
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試合は完全にカオスのペースになっていた。前半の時間が残り少ない中、0ー10。前半で、こんなに点差がつけられるなんて。
圧倒的な実力の差。傷ついていく仲間。ボールを蹴れなくなった戦力外の自分。…これじゃあ、もう、
「もう、勝ち目なんて、」
ぱしんっ
乾いた音が響いた。
じわじわと頬に痛みが走って、目の前にはなっちゃんが立っている。…なっちゃんに、叩かれた?
夏「いい加減になさい!なんなの、今の貴女は!
勝利の女神がどちらに微笑むかは、やってみなくちゃ分からない。だから最後まで全力でやる。
それが貴女の、美波のサッカーじゃなかったの!何で、諦めようとするのっ!」
秋「そうよ!私達はずっと頑張ってきたんだよ!
弱小だった私達がフットボールフロンティアが優勝出来たのは、諦めずに頑張ったからなんだよ?
今、世界の命運をかけて戦ってる。そしてやっとここまで来れたの!だから、」
「違う、違う違う違うっ!」
春「っ、先輩!」
「そうじゃない。違うん、だよ…」
確かに最初の最初はあたしだって、世界を救うんだって思ってたよ。
でも、あたしが今まで戦ってきたのは、世界の為じゃなくて、エイリアの皆を救いたくて、
あたしは、そんな、皆みたいにいい子じゃないんだよ。エゴなんだよ。
だから、一郎太を傷つけた。
「………」
夏「…風丸君が、原因?」
「な…」
夏「偶然見てしまったの。美波が風丸君の家を飛び出して行くのを」
「はは…見て、たんだ……」
夏「これでいいだなんて、思ってないんでしょう?まさか、勝ちたくないの?」
「勝ちたいよ……でも、…あたしの力じゃ……」
夏「…言ったわね、勝ちたいって」
「当たり前、じゃん」
夏「なら、何で1人でやろうと抱え込もうとするのかしら。勝ちたいのは美波だけじゃないのよ」
秋「グラウンドを見て、美波ちゃん」
「え………」
あたしがグラウンドを見た時、丁度鬼道がネッパーのパスをカットした。守兄ぃ、鬼道、土門が上がって、回転をかけながら跳躍して、
円・鬼・土「『デスゾーン2』!!」
紫色のシュートがゴールに突き刺さって、スコアは1ー10となった。
「1点、目……取っ、た…?」
何で。さっきまでは全然太刀打ち出来なかったのに、何で急に、
夏「本当に何も見てなかったのね…」
春「あのですね!お兄ちゃんが元プロミネンスの人が、同じチームだった選手にしかパスを出さないのを見抜いたんです!」
「え……。…凄いね、鬼道も、皆も、」
春「はい!ここからどんどん巻き返せますよ!」
バ「『アトミックフレア』!」
立「『ムゲン・ザ・ハンド』!」
今度は立向居がついに『ムゲン・ザ・ハンド』を完成させて、追加点を阻止した。
『!』
立「で、出来た…!」
点差は9点。まだまだ危ない状況だけど、それでも皆の表情は、明るかった。…本当に凄いや、皆は。
秋「美波ちゃんは風丸君のこと、大好きなんだよね?」
「………うん」
春「えっ…ええ!?」
夏「…そういう意味ではないと思うわ」
秋「風丸君に何を言われたのかは知らないけど、そのことでショックを受けて、ボールを蹴れなくなっちゃったんだよね」
「…」
秋「確かに今は負けてる。でも私は、私達は、円堂君達ならきっと勝てるって信じてる。だから、美波ちゃんも信じて?」
「あき………」
9点差のまま、前半は終わった。秋達はドリンクやタオルを渡しに、皆の元へ向かう。
後半でこの点差を巻き返せるのかな?……いや、巻き返せるのか、じゃない。巻き返すんだ。
今までの試合を思い出してみる。いつも追い詰められても、そこから力を合わせて勝ち抜いてきた。
皆なら、皆と一緒なら出来る。そんな底知れない、さっきまで涸れきってきた自信が、満ち溢れてくる。
「行かなきゃ」
立ち止まってなんか、いられない。
監督に伝えようとベンチを立ったら、後ろから軽くユニフォームを引っ張られた。
「しろ君」
吹「美波ちゃん…。……行くんだね」
「…行ってくるよ」
吹「……」
「待ってるから、追い付いて」
皆はあたしのことを見ていて、なんだか、あたしから言うのを待っていてくれてる気がした。
「か、監督」
瞳「何かしら」
「後半、出たい、です」
瞳「足手まといになるかもしれなくても?」
「足手まといになんか、なりません。もう大丈夫です。全力で、勝ちにいきます。お願いします!」
瞳「…壁山君のところに入りなさい」
「!、ありがとうございます!」
よかった。よかった。試合に出られる。これで2人と…カゼルとバーンと、戦える…!
壁「俺の分まで頑張って欲しいッス!」
鬼「随分と遅い立ち直りだな」
塔「心配かけさせやがって!」
「すみません…」
円「ははっ。よーし、後半だ!逆転していくぞ!」
『おおっ!』
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