荒波少女

□第32話 炸裂!ファイアブリザード!!
1ページ/5ページ

試合は完全にカオスのペースになっていた。前半の時間が残り少ない中、0ー10。前半で、こんなに点差がつけられるなんて。


圧倒的な実力の差。傷ついていく仲間。ボールを蹴れなくなった戦力外の自分。…これじゃあ、もう、



「もう、勝ち目なんて、」



ぱしんっ



乾いた音が響いた。


じわじわと頬に痛みが走って、目の前にはなっちゃんが立っている。…なっちゃんに、叩かれた?



夏「いい加減になさい!なんなの、今の貴女は!


勝利の女神がどちらに微笑むかは、やってみなくちゃ分からない。だから最後まで全力でやる。


それが貴女の、美波のサッカーじゃなかったの!何で、諦めようとするのっ!」

秋「そうよ!私達はずっと頑張ってきたんだよ!


弱小だった私達がフットボールフロンティアが優勝出来たのは、諦めずに頑張ったからなんだよ?


今、世界の命運をかけて戦ってる。そしてやっとここまで来れたの!だから、」

「違う、違う違う違うっ!」

春「っ、先輩!」

「そうじゃない。違うん、だよ…」



確かに最初の最初はあたしだって、世界を救うんだって思ってたよ。


でも、あたしが今まで戦ってきたのは、世界の為じゃなくて、エイリアの皆を救いたくて、


あたしは、そんな、皆みたいにいい子じゃないんだよ。エゴなんだよ。


だから、一郎太を傷つけた。



「………」

夏「…風丸君が、原因?」

「な…」

夏「偶然見てしまったの。美波が風丸君の家を飛び出して行くのを」

「はは…見て、たんだ……」

夏「これでいいだなんて、思ってないんでしょう?まさか、勝ちたくないの?」

「勝ちたいよ……でも、…あたしの力じゃ……」

夏「…言ったわね、勝ちたいって」

「当たり前、じゃん」

夏「なら、何で1人でやろうと抱え込もうとするのかしら。勝ちたいのは美波だけじゃないのよ」

秋「グラウンドを見て、美波ちゃん」

「え………」



あたしがグラウンドを見た時、丁度鬼道がネッパーのパスをカットした。守兄ぃ、鬼道、土門が上がって、回転をかけながら跳躍して、



円・鬼・土「『デスゾーン2』!!」



紫色のシュートがゴールに突き刺さって、スコアは1ー10となった。



「1点、目……取っ、た…?」



何で。さっきまでは全然太刀打ち出来なかったのに、何で急に、



夏「本当に何も見てなかったのね…」

春「あのですね!お兄ちゃんが元プロミネンスの人が、同じチームだった選手にしかパスを出さないのを見抜いたんです!」

「え……。…凄いね、鬼道も、皆も、」

春「はい!ここからどんどん巻き返せますよ!」



バ「『アトミックフレア』!」


立「『ムゲン・ザ・ハンド』!」



今度は立向居がついに『ムゲン・ザ・ハンド』を完成させて、追加点を阻止した。



『!』


立「で、出来た…!」



点差は9点。まだまだ危ない状況だけど、それでも皆の表情は、明るかった。…本当に凄いや、皆は。



秋「美波ちゃんは風丸君のこと、大好きなんだよね?」

「………うん」

春「えっ…ええ!?」

夏「…そういう意味ではないと思うわ」

秋「風丸君に何を言われたのかは知らないけど、そのことでショックを受けて、ボールを蹴れなくなっちゃったんだよね」

「…」

秋「確かに今は負けてる。でも私は、私達は、円堂君達ならきっと勝てるって信じてる。だから、美波ちゃんも信じて?」

「あき………」



9点差のまま、前半は終わった。秋達はドリンクやタオルを渡しに、皆の元へ向かう。


後半でこの点差を巻き返せるのかな?……いや、巻き返せるのか、じゃない。巻き返すんだ。


今までの試合を思い出してみる。いつも追い詰められても、そこから力を合わせて勝ち抜いてきた。


皆なら、皆と一緒なら出来る。そんな底知れない、さっきまで涸れきってきた自信が、満ち溢れてくる。



「行かなきゃ」



立ち止まってなんか、いられない。


監督に伝えようとベンチを立ったら、後ろから軽くユニフォームを引っ張られた。



「しろ君」

吹「美波ちゃん…。……行くんだね」

「…行ってくるよ」

吹「……」

「待ってるから、追い付いて」



皆はあたしのことを見ていて、なんだか、あたしから言うのを待っていてくれてる気がした。



「か、監督」

瞳「何かしら」

「後半、出たい、です」

瞳「足手まといになるかもしれなくても?」

「足手まといになんか、なりません。もう大丈夫です。全力で、勝ちにいきます。お願いします!」

瞳「…壁山君のところに入りなさい」

「!、ありがとうございます!」



よかった。よかった。試合に出られる。これで2人と…カゼルとバーンと、戦える…!



壁「俺の分まで頑張って欲しいッス!」

鬼「随分と遅い立ち直りだな」

塔「心配かけさせやがって!」

「すみません…」

円「ははっ。よーし、後半だ!逆転していくぞ!」


『おおっ!』




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ