荒波少女

□第31話 奇跡のチーム!ザ・カオス!!
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カオスとの試合は明後日。皆疲労が溜まっているからと今日はもう練習を切り上げて、明日の練習に備えて休むことになった。


明日は『デスゾーン2』を強化して、『ムゲン・ザ・ハンド』の完成を目指すことになっている。


2つのマスターランクチームの混成チームなんだから、カオスの実力は計り知れない。明日でどれだけ出来るかな…。



「あ、守兄ぃ。先家帰ってて!なんなら先にキャラバンに行っててもいいから!」

円「どうかしたのか?」

「うん。ちょっと行きたいとこがあるんだ」

円「分かった。気をつけろよ。いつ何があるか分からないからな」

「大丈夫だって」

円「もしかしたらエイリア学園の奴がいるかもしれないし」

「いやいや」

円「なんなら俺もついてくぞ!」

「大丈夫だってば!家帰ってキャラバンゴー!」



…相変わらず過保護だよなあ、守兄ぃは…。


稲妻町に帰ってきてはいるけど守兄ぃはキャラバンに泊まるらしいから、あたしもそうするつもりだ。


一旦家に帰ってシャワー浴びたりするつもりだったけど、その前にやりたいことがある。


稲妻町に帰ってきた時からずっと考えてた。けど、なんだか無性に怖くて、情けないことに逃げてきた。



「…ついた」



目の前にある家の表札は、"風丸"。一朗太の家だ。


しろ君のこと、ヒロトのこと、エイリア学園のこと。やるべきことや考えることは沢山あって、それを言い訳にしてた。


電話やメールを何度かしたけどけど、電話には出なくてメールの返事も来なくて、結局何も出来なかった。誰かに話すこともしなかった。


…強力なエイリア学園を前に大切な幼なじみが悩んでるのに全然気づかないなんて、幼なじみ失格だよ。


一朗太は何でも自分で抱え込んで1人で悩むから、あたしの方から聞かなきゃいけなかったのに。


だから、一朗太と直接話すために来たんだ。


インターホンを押せば、ぴんぽーんと軽快な音が鳴った。一朗太のお母さんが出てきて、部屋にいることを教えてくれた。


何でも、帰ってきてからずっと必要最低限以外は部屋に籠ってるらしい。


思えば一朗太の家には、久しぶりに来た気がする。懐かしさを噛み締めながら、ドアの前に立った。


深呼吸して落ち着かせて、ノックをする。



風「…母さん?」



久しぶりに聞いた一朗太の声は、ドア越しだからかもしれないけど、掠れたように聞こえた。



風「…ごめん。外に出たい気分じゃないんだ」


「…」


風「何をすればいいのか分からない…」


「…」


風「自分が今まで何を何の為にしてきたかすら分からなくなる…」


「…」


風「俺は…」


「一朗太っ!」



一朗太の弱音を聞いてられなくて、耐えられなくて、思わず叫んだ。どんな言葉をかければいいか、分からない。


ぴたりと声が止まって、布擦れの音が微かに聞こえる。



風「…美波?」



ドアの近くまできたのか、さっきより声がはっきりと聞こえた。



「久しぶり、一朗太」

風「どうして、稲妻町に…」

「戻ってきたんだ。沖縄でイプシロンを倒して、一旦ね」

風「そうか…。やっぱり凄いな。美波も、円堂も…羨ましいよ」

「羨ましいって、」



自嘲するような言葉の中に、嫉妬や羨望の感情が見え隠れする。



風「俺は強くないから。サッカーにおいても、何もかも。だから、気持ちでさえ強く持ち続けることも出来ない」

「そんなことない!」



そんなことない。心からの気持ちだった。


小学生の頃から一朗太と一緒だった。一緒に色んな所に行って、遊んで、サッカーして、


だから例え擦れ違っても、きっとお互いに分かり合えるって思ってた。



「また一緒に、サッカーやろうよ!」



けど、



風「っ……美波に何が分かるんだっ!」



あたしが思ってる以上に、一朗太は苦しんでたんだ。





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