荒波少女
□第20話 キャプテンの試練!
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「はあ…」
左足を怪我したあたしは、ベンチに座って練習の様子を見ていた。
守兄ぃがいないグラウンド。物凄い、違和感を感じる。
走り込みをして、ボールを蹴って、いつも通りの練習。でもそこには、昨日までい守兄ぃと一朗太の姿はない。
みんな気にしているのか、練習に身が入っていない。
陽花戸中の校舎の屋上。フェンスにもたれ掛かっている、守兄ぃの背中が見えた。
右足だけで、座ったままリフティングしていたら、何か降ってきたような感覚。
「あ、雨…」
鬼「仕方ない、止むまで休もう」
一旦練習を止めて校舎の中に入る。雲は厚くて、すぐには止みそうにない。
屋上にいる守兄ぃは、中に入ったのかな。入らなかったら、風邪ひいちゃうし…。
鬼「気になるか、円堂のこと」
「…初めてなんだ、あんな守兄ぃ見るの。一朗太が降りたからかな…」
一「幼なじみなんだよね」
「うん。小学校から一緒で、よくサッカーしてたんだ」
あの頃は一緒にサッカーしてくれるのが一朗太しかいなかったから、3人でサッカーをするのが当たり前だった。
一緒にいるのが当たり前だったから、辛いんだ。
鬼「美波は辛くないのか?」
「…辛いよ。でも、エイリア学園に勝たないと。エイリアの人達だって、サッカーを破壊の道具なんかに使いたくない筈だよ」
筈じゃなくて、本当だ。みんな、サッカーが大好きなんだから。
「だから、勝たないと。勝って全部終わらせて、楽しいサッカーをするんだ」
鬼「…お前らしいな」
ポンポンと慰めるように頭を撫でられる。なんか珍しいな。
鬼「何だその珍しいとでも言いたげな顔は」
「うぇ、きどーいひゃいいひゃい…」
なんか久しぶりに鬼道にほっぺた引っ張られたような気がする。
抵抗で軽くドレッドを引っ張ってみたけど、すぐに離す。鬼道もどこか辛そうだったから。
鬼「…様子を見に行くか」
鬼道の一言で、屋上へと足を向ける。みんな黙ったままだ。
「…」
屋上では、雨にうたれながら、守兄ぃはそこに座っていた。服もなにもかもぐちゃぐちゃで、見ていられない。
凄く悩んでて、双子の妹なのに何も出来ない自分がもどかしい。
壁「あんなキャプテン見てるの辛いッス…」
土「だな…」
ピカッと雷が鳴った。
***
次の日もグラウンドに守兄ぃはいなかった。昨日からずっと屋上にいて、食べ物をほとんど食べてないらしい。
「どうすれば立ち直ってくれるかな…」
立「おはようございます!」
「あ、立向居」
立向居が走ってきた。
立「あれ、円堂さんはどこですか?一緒に新しい必殺技の練習をしようって約束したんです!」
秋「円堂君は今ちょっと…」
立「どこかに出かけているんですね?ひょっとして、1人で特訓だったりして!」
…いつもの特訓だったら、どれ程よかったことか…。
立「じゃあ伝言お願いします。
円堂さんが究極奥義『正義の鉄拳』を身に付ける前に、俺が『マジン・ザ・ハンド』を完成させます!負けませんよ!
以上です!失礼します!」
立向居は一礼すると、走って行った。あの熱意なら、『マジン・ザ・ハンド』を完成させるのもそう遠くないかも。
鬼「いつもなら、今の立向居の言葉で奮い立つんだがな…」
「そうだね…」
今の守兄ぃには、これだけじゃ足りない。
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