荒波少女

□第20話 キャプテンの試練!
1ページ/5ページ

「はあ…」



左足を怪我したあたしは、ベンチに座って練習の様子を見ていた。



守兄ぃがいないグラウンド。物凄い、違和感を感じる。



走り込みをして、ボールを蹴って、いつも通りの練習。でもそこには、昨日までい守兄ぃと一朗太の姿はない。



みんな気にしているのか、練習に身が入っていない。



陽花戸中の校舎の屋上。フェンスにもたれ掛かっている、守兄ぃの背中が見えた。



右足だけで、座ったままリフティングしていたら、何か降ってきたような感覚。



「あ、雨…」


鬼「仕方ない、止むまで休もう」



一旦練習を止めて校舎の中に入る。雲は厚くて、すぐには止みそうにない。



屋上にいる守兄ぃは、中に入ったのかな。入らなかったら、風邪ひいちゃうし…。



鬼「気になるか、円堂のこと」

「…初めてなんだ、あんな守兄ぃ見るの。一朗太が降りたからかな…」

一「幼なじみなんだよね」

「うん。小学校から一緒で、よくサッカーしてたんだ」



あの頃は一緒にサッカーしてくれるのが一朗太しかいなかったから、3人でサッカーをするのが当たり前だった。



一緒にいるのが当たり前だったから、辛いんだ。



鬼「美波は辛くないのか?」

「…辛いよ。でも、エイリア学園に勝たないと。エイリアの人達だって、サッカーを破壊の道具なんかに使いたくない筈だよ」



筈じゃなくて、本当だ。みんな、サッカーが大好きなんだから。



「だから、勝たないと。勝って全部終わらせて、楽しいサッカーをするんだ」

鬼「…お前らしいな」



ポンポンと慰めるように頭を撫でられる。なんか珍しいな。



鬼「何だその珍しいとでも言いたげな顔は」

「うぇ、きどーいひゃいいひゃい…」



なんか久しぶりに鬼道にほっぺた引っ張られたような気がする。



抵抗で軽くドレッドを引っ張ってみたけど、すぐに離す。鬼道もどこか辛そうだったから。



鬼「…様子を見に行くか」



鬼道の一言で、屋上へと足を向ける。みんな黙ったままだ。



「…」



屋上では、雨にうたれながら、守兄ぃはそこに座っていた。服もなにもかもぐちゃぐちゃで、見ていられない。



凄く悩んでて、双子の妹なのに何も出来ない自分がもどかしい。



壁「あんなキャプテン見てるの辛いッス…」

土「だな…」



ピカッと雷が鳴った。




***



次の日もグラウンドに守兄ぃはいなかった。昨日からずっと屋上にいて、食べ物をほとんど食べてないらしい。



「どうすれば立ち直ってくれるかな…」


立「おはようございます!」


「あ、立向居」



立向居が走ってきた。



立「あれ、円堂さんはどこですか?一緒に新しい必殺技の練習をしようって約束したんです!」

秋「円堂君は今ちょっと…」

立「どこかに出かけているんですね?ひょっとして、1人で特訓だったりして!」



…いつもの特訓だったら、どれ程よかったことか…。



立「じゃあ伝言お願いします。


円堂さんが究極奥義『正義の鉄拳』を身に付ける前に、俺が『マジン・ザ・ハンド』を完成させます!負けませんよ!


以上です!失礼します!」



立向居は一礼すると、走って行った。あの熱意なら、『マジン・ザ・ハンド』を完成させるのもそう遠くないかも。



鬼「いつもなら、今の立向居の言葉で奮い立つんだがな…」

「そうだね…」



今の守兄ぃには、これだけじゃ足りない。





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ