荒波少女

□第5話 伝説のストライカーを探せ!
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特訓の後には秋達が作ってくれたおにぎりが用意されていた。

早速手を伸ばそうとして、なっちゃんからストップが入ったので、洗った手を見せる。前みたいなミスはしないよ!



「……よろしい」



その一言で、皆我先にとおにぎりに手を伸ばした。うん、美味しい!疲れた体に塩味が染みる!

あ、鬼道が春ちゃんの取った。鬼道は本当に春ちゃんが大事なんだな。一之瀬と土門は秋のばっかりだし、特に仲良しな人のは手を伸ばしたくなるよね。

かくいうあたしもなっちゃんのを手に取る。最初は塩をつけすぎやムラがあったりだったけど、最近はちょっと形が歪なだけで美味しいのが多い。……たまに外れるけど。

監督が言うには近くに温泉もあるらしい。山道を駆け回って汗と泥で汚れてるから、さっぱりするには丁度いい。




「山の中にある温泉なんて旅ならではって感じだ!」

「だな!よし、美波!行くぞ!」

「行くぞって……塔子そっち守兄達がまだ着替えてえええ!」

「円堂一緒に入ろーぜ!」

「へ?」

「あ、あの……皆、ごめ」

『うわあああああ!!!』



一瞬のフリーズの後、男子達の悲鳴が山中に響き渡った。止められなくて本当にごめん。



「ったく、大げさなんだから」

「さっきのは塔子に非があると思うよ」

「入る先は同じなんだから、一緒に脱ぐ必要は無いでしょう」

「あ、そういえばそうだったな!」



あっけらかんと笑う塔子にがっくりと肩を落とすなっちゃん。でもそういう所が塔子のいい所だ。男女関係無し!って感じで。

ずっと男子に混じってサッカーをやってたから、女子サッカー仲間が増えて、やっぱり嬉しいな。



「うおー!温泉だーっ!」

「守兄!叫んでないで入らないと風邪引くよ!」

「まったく、円堂らしいな」



ふいに塔子が思い出したように言った。



「そういえば何で美波は驚かなかったんだ?」

「え?だって守兄や一郎太と一緒に入ったことあるし」



何故か全員が凍りついた。そして守兄と一郎太以外の悲鳴が響く。あの鬼道でさえぽかんと口を開けている。どうして。



「鬼道だって春ちゃんとお風呂入ったことくらいあるでしょ」

「それは……そうだが。とりあえず風丸。その話、後でよく聞かせてもらいたい」

「昔の話だ昔の!」



真っ赤な顔をした一郎太が叫ぶ。何で皆がそんなに気になってるのか分からないけど、大丈夫だろうか。



「なんだか楽しそうだね春ちゃん」

「いえそんなことは。ところで、美波先輩のミサンガって、風丸先輩から貰ったんですよね?」

「あ、これ?そうそう。誕生日に貰ったんだ」

「……風丸先輩はどんな思いでプレゼントしたんでしょうねえ」

「え?ミサンガなんだから願いが叶いますようにとかじゃない?」

「他にもあるかもしれませんよ?風丸先輩は美波先輩のこと大事に思ってますから」



そう言ってにんまりと笑う春ちゃん。なんだか居心地が悪くなって、視線を逸らして足首のミサンガを見下ろす。

大事、とは。幼馴染みで、親友で、大事な人を思っての願いが込められてるってことだろうか。


夕飯を食べて、焚き火を囲んで雑談したりして、あっという間に寝る時間だ。

守兄達男子陣はキャラバンで、あたし達女子はなっちゃんが出してくれたテントで寝ることになった。

小さい包み?みたいなのがみるみるうちに膨らんでテントになったけど、どういう仕組みなんだろ。



「って、塔子はこっち!」

「えー」

「えーじゃなくて、なっちゃんがあたし達はこっちだって言ってたじゃん!」

「あたしは円堂達と寝たいけどなあ。だってせっかくの旅なんだから沢山話すこともあるだろ」

「塔子さん……!」

「ところで美波先輩は、キャプテンや風丸先輩と一緒に寝たことってありますか?」

「あるよ」

「ほう、初耳だな」

「……かなり前に円堂の家に泊まった時の話だ」

「へえ、じゃあ今夜はその時のことも教えてもらおうかな」



楽しそうにウインクを飛ばした一之瀬の笑顔に一郎太の口元はひきつっていた。よく分かんないけど頑張れ一郎太。

どうにか塔子を納得させて、寝る準備をする。寝袋に入って、就寝!



「そうだ!美波先輩に好きな人っているんですか!」



とはならなかった。突然ガバッと体を起こした春ちゃんは、あたしに向かってそう言ってきた。好きな人か。



「守兄、一郎太、半田、染岡、あと皆」

「ある程度は予想してましたけどそういう意味じゃありませんよ」

「あー、じゃあ恋愛?」

「……美波先輩、恋愛って言葉知ってたんですね」

「流石に知ってるよ。でも、そういうのは無いかな」

「風丸先輩でも?」

「……何でそこで一郎太。無いよ」

「本当にですか?」

「食い下がるね春ちゃん……」



恋愛というのはどうもよく分からない。男女間の友情は云々かんぬんとかたまに聞くけど、案外上手くやれるものじゃないだろうか。

だって現に、一郎太とは小学校からの付き合いだけど、今も仲の良い友達で親友だ。



「一郎太はね、ヒーローなんだよ」

「ヒーローって?美波のこと助けてくれる感じ?」

「そんな感じ。教科書忘れた時とか、課題溜めちゃった時とか、片付け全然出来てない時とか」

「はあ……。成績が下がったらたとえ美波でも練習禁止よ。これは」

「理事長の言葉と思ってもらって構いません?」

「……そうよ。現時点では貴女はともかく、円堂くんは少し危ないわ」

「……守兄に言っておくね」

「んで、他には何かないの?」

「ん?あ、あと足が速い。速いのって格好いいじゃん?」

「……小学校の運動会みたいだね」

「え?確かに一郎太は運動会ではいつも大活躍だったけど」



意外なことに、春ちゃんだけでなく塔子も秋もなっちゃんも話に入ってきた。それならば。



「あたしばっかりだけど秋となっちゃんには好きな人いるの?」

「なっ……そんな人いないわ!」

「そ、そうだよ!」

「そっか。塔子は?」

「うーん、友達としては皆好きだけど恋愛ってなったらいないな!」

「だよね」

「(キャプテンといい美波先輩といい、皆さん前途多難ですね)」

「どしたの?」

「いえなんでも無いです。ただお兄ちゃんにはもっと頑張って欲しいなって」

「鬼道はいつもゲームメイク頑張ってると思うけど……。じゃあ、そろそろ寝よっか」

「そうですね!」




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