荒波少女

□第5話 伝説のストライカーを探せ!
1ページ/4ページ

皆の所へ戻ると、皆監督を不満そうに見ていた。……豪炎寺が離脱したのには理由がある。けど、今はまだ言えない。

そんな時、響木監督からメールが来た。どうやら北海道にある白恋中のエースストライカー、"吹雪士郎"をスカウトして戦力アップを図るようにと。

熊殺しの吹雪、1試合で10点を叩き出した、熊よりでかい、ブリザードの吹雪という異名を持つ。

キャラバン内で春ちゃんのパソコンで色々調べてみれば、凄い情報が沢山出てきたけど、確証のある情報はなかった。



「熊って大きいのだとどれくらいなんだろ」

「いや何言ってんだよ」

「だってほら一郎太、もし本当に熊よりでかかったらキャラバン乗れないじゃん」

「中学生で熊よりでかいのはいないだろ」

「……だよね」



それにしても、吹雪士郎か……。名前を聞いた時、ピンときた。この名前を、あたしは聞いたことがある。

以前北海道に行った時に出会ったしろ君。響木監督が言っていたのはしろ君のことだろう。

北海道広しと言えど、"サッカーをやっている吹雪士郎"なんてそう何人もいない……筈だ、多分。

でもおかしい。しろ君はポジションはディフェンダーだと言っていた。フォワードなのは弟のアツ君――吹雪アツヤの方だ。何で?

でも会ったのはかなり前な訳だし、数年の間に変わっててもおかしくはない……か?

でもアツ君は好戦的だからフォワードで、しろ君は大人しいっていうか受け身?受け流す?のが上手いディフェンダーって感じで……。



「うーん……」

「何を唸っているんだ」

「あ、鬼道。吹雪士郎ってどんな人かなあって。1試合で10点なんて凄いよね、鬼道は聞いた事あった?」

「いや、初めて聞いた名前だ。白恋中はフットボールフロンティアにも出場していないからな」

「そんなに凄い選手ならちょっとくらい話題になってもいいのに、北海道内での噂に留まってるみたいだよね」

「ああ。噂が本当なら間違いなく全国クラスの選手だろう」

「お、天才ゲームメーカーのお墨付きだ!」

「まだ実際に見た訳ではないのに予想だけで判断するな」



ぴしゃりと言われてしまった。手厳しいな鬼道は。

ぼんやり考えていると、塔子の携帯に電話が入った。財前総理がエイリア学園から解放されて、無事に保護されたらしい。

それでも、塔子は京都には帰らずに、一緒に戦ってくれると言ってくれた。……でも本当は会いたいんだろうな。



「ね、守兄」

「ああ。分かってる」



そして守兄の提案で、一旦総理に会いに行くことになった。国会議事堂からキャラバンに戻ってきた塔子は、どこか嬉しそうに見えた。

心機一転して北海道へキャラバンは進路を取る。山道を走っていると、キャラバンが急に止まった。



「狭いバスに乗ってばかりじゃ体が鈍るわ。トレーニングをしましょう」



チラッと監督が春ちゃんの方見ると、トレーニングメニューもあるとノートを出した。……なんか少し春ちゃん慌ててない?

けれど豪炎寺の離脱もあってか皆の間には不信感があって、結局山の自然を相手に自主トレーニングをすることになった。



「よーし!山だ!自然だ!特訓だっ!」



で、特訓とはいってもだ、



「何しようかな……」



なかなかいいアイディアが思いつかないので、山道をボールを蹴りながら歩く。

デコボコしていて結構やりにくい。思いもよらない変な方向に飛んでいくボールを追うのは、結構いいかもしれない。



「あ」



バウンドしたボールが転がっていく。下り坂になってたみたいだ。追いついた先で、茂みの向こうに鬼道と染岡が見えた。何をして……えっ?

ボールが、滝を登ってる。あんなに勢いのある滝なのに、まさに滝登り。相当なパワーやテクニックが無いと無理だ。……流石だな、二人共。

滝かあ……。……滝。高所から落ちてくる、水。何だろう。何か、思いつきそうな気がする。

エイリア学園に対抗する為に、新必殺技が欲しい。考えながら歩いていると、ドリブルしながら山道を駆けていた一郎太を鉢合わせた。



「っと……美波か。難しい顔してるな、考え事か」

「うん。何か思いつきそうな気がしてちょっと考え中」

「何かって?」

「まだ分かんない。シュートかドリブルかブロックがキーパーか……」

「また曖昧だな……キーパー?何で美波が?」

「実はこっそり豪炎寺と特訓したんだ。ほら、雷門ってキーパー守兄しかいないし」

「豪炎寺と……」



そんなこと無いだろうけど一応、だ。



「円堂は例え怪我をしたとしても、美波と交代することはないと思うぞ」

「……だよね」

「それに俺だって心配だ」

「守兄も一郎太も、相変わらず心配性だ」



サッカーをやっている以上、怪我なんてよくあることなのに。

それにしても、噂をすればなんとやらで、近くに守兄がいたとは。しかも、



「……何やってんだ?」

「さあ……」



体に縄を巻き付けて、ターザンっぽい変な特訓をしてた。超回転している。

マジン・ザ・ハンドをもっと早く出すために、回転に体を馴らしてるらしい。……何でこれに行き着いたんだろ。



「回転って体をぐぐーっと捻って気をぎゅーっと溜めてそこからばーん!ってやるんだよね」

「……やっぱりお前も大介さんの孫だな」

「え」

「ふーん。他には?美波はどう思う?」

「他に?」



近くにいた塔子はこの特訓に興味津々みたいだ。他に、他にかあ。



「あんなに速く回ってるんだし、慣らすのは必殺技の方じゃないかも」

「っていうと?」

「ほら、レーゼのシュートって速かったし、あれを見極める為?目が回っちゃうような速さにも慣れてやれ!って」

「なるほどな!よし、あたしも!」

「おい!何も塔子まで付き合うこと無いだろ」

「ザ・タワーにも役に立つ!」



縄を結び付けた塔子が、二ッと笑って飛び出していく。そしてぐるぐると回る二人。それを眺めるあたしと一郎太。



「これで本当に勝てるのか……?」

「……きっと勝てるよ!気持ち、大事!」




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ