荒波少女in世界

□第8話 真剣勝負!円堂と飛鷹!!
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カタール戦で殻を破った虎丸は、練習でも積極的にシュートを撃つようになった。

今日も豪炎寺のパスを受けそのまま士郎くんと夕弥のディフェンスを突破し、強力なシュートを決めて見せると、ニッと笑った。うん、絶好調だね!

のびのびと楽しそうにプレーする虎丸を見てると、こっちまで嬉しくなってくる。負けてられないという気持ちも沸き上がってきた。

そんな皆を、けっと相も変わらずな冷めた目で見ているのは明王ちゃんだ。せっかくまたチームが強くなったって言うのに。



「ほら、明王ちゃんも混ざろうよ」

「うるせえ」

「じゃああたしとパス練する?」

「いらねえ」

「一人でリフティングばっかしてて楽しいの」

「知るか」



あっちに行けと野良犬でも追い払うようにシッシと手を振られては仕方ない。どうしてこうなるのか、試行錯誤してもなかなか上手くいかない。

いっそ豪炎寺みたくシュートをお見舞いしてやろうか。そう思い立って足を振り上げようとした時、声をかけてきたのは、しかめっ面の一郎太だった。



「美波、不動に構うのはもうよせ」

「でも、お互いのプレーを知っておかないと試合の時困るよ」

「いくら心を砕いたところであいつが歩み寄る気にならなければ意味がない。美波の練習時間が減るだけだ」

「それは……」



色々あったけど、チームになった以上は仲間としてやっていきたい。でも今の明王ちゃんに変わる気なんて更々ないのも事実。

慰めるように俺とパス練しようと言ってくれた一郎太とボールを蹴る。蹴ったボールは真っ直ぐにあたしへ返ってきた。真面目な一郎太らしいパスだ。

思いが込められたパスを受ければ、相手の気持ちはなんとなく分かる。その熱を受け取って、またパスを繋ぐ。

けれど明王ちゃんへのパスは返ってこない。いくら出してもやがてはゆっくりと転がって止まるだけ。まるであたし達の関係みたい。



「どうしてそんなに不動を気にするんだ」

「だってチームメイトなんだよ」

「あいつもそう思ってるかどうかは分からないけどな」

「少なくとも同じチームの選手くらいには思ってるよ……多分」

「かもしれないな。でもそれだけで勝てる程サッカーも世界も甘くない、そうだろ?」

「……そうだけど」

「あいつのプレーは身勝手だ。自分のことしか考えてない。監督の意図は読めないけど、あれじゃあ試合に出たとしても連携なんて出来やしない」


ボールに足をかけて、一郎太は苦々しげに明王ちゃんへ視線を向けた。代表決定戦の映像は春ちゃんに見せて貰ったけど、確かにワンマン気味だった。

でも、武方にオフサイドトラップを仕掛けた時、的確な指示を出していた。だから皆を全然見てないなんてことはない……と思いたい。

気を取り直してパスを出そうとした時、横からボールが飛んできた。隣では立向居と飛鷹がパス練してた筈。どうも飛鷹がミスキックしたみたいだった。



「すみません美波さん!」

「いいっていいって!飛鷹も気にしなくていいからね!」

「……ッス」

「ほら、パス!」



ボールを軽めに返せば、飛鷹も蹴り返す。けれど立向居の方から逸れて近くにいた条兄に当たってしまった。うーん、蹴り方に癖があるような。

仕切り直してもう一度しようとしたら、今度は空振り。動きを止めた飛鷹は、走り込みをしてくると行ってしまった。

気持ちを切り替える為だろうけど、飛鷹はよく走り込みに行く。でもそれは、まるでボールから逃げてるようにも見える時がある。

飛鷹は、サッカー好きなんだろうか。考え込んでると人の気配がして、視線を向けるとすぐそばに一郎太が来ていた。



「また考え事してるな。飛鷹だろ?」

「うんまあ……」

「飛鷹もいまいちよく分からないんだよな。協調性はある分、不動よりはやりやすいけど」

「そうだね。もうちょっと仲良くなれたらなあ」

「不動といい人のことばっかりだな……。もう少し自分を大事にしろよ」

「一郎太だってあたしのこといつも助けてくれるじゃん」

「……美波が心配なんだよ」



ワントーン低い声。パスと同じ、真っ直ぐな視線。その奥に静かな熱が見えた気がして、つっかえたように言葉が出てこなくなった。

後退りそうになるのを必死で抑える。駄目だ、逃げるな。踏み込まれるのを恐れるな。心配してくれてるのは本当なんだから、怖がる必要なんかない。

どうせいつまでもこのままじゃいられない。いつかは向き合わなくちゃならない。


「心配してくれてありがとう。一郎太こそ大丈夫?」

「俺?俺は大丈夫だって」

「それで一郎太のこと後回しにして後々後悔したからさ」

「お前ここでそれを言うのか……」

「あたしもあたしで隠し事沢山して皆のこと振り回しちゃったしね。……今度こそ間違えたくないんだ」

「……ああ、そうだな」



お互いに、もう失敗したくない。もう間違えたくない。それだけ。


飛鷹が走り込みから帰ってきた頃、監督から今日の練習はここまでと言い渡された。

いつもより早くてリュウジは少し不満そうだったけど、監督の言う通り決勝は近い。体に疲れを残さないよう休息も必要だ。

ストレッチしていると、飛鷹が輪から離れていくのが見えた。ちゃんとクールダウンしたのだろうか。

あっちには水道がある。顔を洗いに行くのかな?でもタオル持ってってないみたい。よし、届けに行こう。そう思った時、守兄も同時に立ち上がった。



「美波」

「守兄」

「行くか?」

「うん!」



秋に一言断りを入れてタオルを一枚借りる。道中の話題はやっぱり飛鷹だった。


「気になるか、飛鷹のこと」

「そう言う守兄こそ。明王ちゃんとは違う方向性でチームに馴染めてないよね」

「うーん。いい奴だとは思うんだけどなあ、なんか距離があるんだよな」

「せっかく仲間になったんだから仲良くなれたらいいんだけど……」

「でも飛鷹が一人でいたいなら無理はさせたくないし」

「今のところ最低限の付き合いはするって感じだよね」

「……あいつ、サッカー好きなのかな」

「分からない……けど、もしそこまででもないなら、これから好きになってくれたら嬉しいな」

「……そうだな!飛鷹にサッカーを楽しんでもらえるように頑張ろう!」

「うん!サッカーは楽しいものだからね!」



守兄はチームのキャプテンだ。あたし以上に考えることも多い。少しでも代われたら……ってやってると、また一郎太が心配するんだろうな……。



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