荒波少女in世界

□第3話 呪われた監督!
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「……うーん」



目覚ましが鳴る音で目が覚めた。目を開けると見慣れない天井。……あれ、ここはどこ?



「あ、学校か……」



正確には宿舎に改装された校舎だ。元は1年の校舎だったのを改装して、日本代表は昨日からここに寝泊りする。

みんなで泊りだっていうから、合宿みたいでテンションが上がって、なかなか寝付けなかったんだよね。

でも疲れはない。目は冴えてるし、今すぐにでも練習がしたくなってきた。でもまずは着替えて朝ごはんだ!



「あ、リュウジ」

「あ、美波だ。おはよう」

「おはよ。寝癖直してるの?」

「俺くせっ毛だからさー」



洗面所に行くと、リュウジにあった。寝癖がついたみたいで、直そうと悪戦苦闘している。



「美波も癖あるよね」

「そうなんだよね。一郎太はサラサラだからさ、時々羨ましくなる」

「風丸かあ。聞いてみようかな」

「あたしも聞いてみたけど、特に手入れはしてないんだって」

「一度言ってみたいよ、そういうの」

「ねー」



顔を洗って、髪を結んでいると、誰かがやってきた。飛鷹だ。



「おはよう、飛鷹」

「……おはよう」

「えーと、今日から練習だね!」

「そうだな」

「お互い頑張ろう!」

「ああ」



……会話が途切れてしまった。仲良くなりたいけど、どうしようかなあ。まあ、練習してるうちに仲良くなれるよね!

リュウジと話しながら食堂に行くと、もう大半が集まっていた。あ、味噌汁の香りがする。



「おはよう、美波ちゃん」

「士郎くんおはよう。あ、ヒロトもおはよう」

「おはよう。緑川も一緒だったのか」

「洗面所で会ったんだ。ま、ヒロトにもそのうち機会が回ってくるって。待てば日和海路の日和あり、だよ」

「……どういう意味かな」

「最近気づいたけど、ヒロトって結構分かりやすいよね。ね、美波?」

「え?ん?」



どういう意味だろう。ヒロトを見ると、複雑そうな顔をしてるのは分かったけど、何を思ってるかまでは分からない。

家族であるリュウジだから分かることがあるのかな?あ、逸らされた。見られてると、なんか居心地悪くなる時あるよね。



「美波、ここの席空いてるぞ」

「美波ちゃん、僕の隣も空いてるよ」



一郎と士郎くんに声をかけられたけど、座るところはもう決めてある。



「明王ちゃーん!隣いい?」

「あっちにいけ」

「うんありがとう!」

「話聞け」



無理矢理座ると、呆れたようにため息をつかれた。でも力ずくでどかそうとしないあたり、明王ちゃんはなんだかんだ優しい。

明王ちゃんが座るテーブルには、あたし以外誰もいない。雷門、特に鬼道や士郎くんとは特に強い因縁があるし、明王ちゃん自身も1人にしろオーラを出してる。

でも、こうして日本代表に選ばれたんだ。一緒にプレーすることは必ずある。その時、あたしだけでもちゃんと連携出来たらなあ……。

鬼道が座ってる辺りから、視線を感じた気がした。


朝ごはんを食べ終わって、グラウンドで準備運動をしていると、虎丸がやってきた。何か理由があるらしくて、虎丸は家から通っている。



「時間ギリギリだけど、大丈夫?」

「す、すみません。なんか信号という信号が、みんな赤信号で」

「だーから、そんな無理してうちから通わなくても、ここに泊まればいいのに」

「ここのご飯、すっごく美味しいですよ」



そう言っても、虎丸は困ったように笑って首を振るだけだった。それを横目に明王ちゃんが嗤って、途端に場の雰囲気が悪くなる。



「なんであんなやつが、代表に選ばれたんだろうな」

「一郎太……。まあほら、実力は本物だよ!」

「サッカーは連携が基本だ。あいつにそれが出来るとは思えない」

「鬼道……」



2人が言うことも最もだ。実際、態度はそこまで良くないとは思う。どうして、敵を作るようなことばかり言うんだろう。

暫くして、久遠監督がやってきた。監督の娘である冬花ちゃんが新しいマネージャーとして紹介されたところで、監督はあたしたちを厳しい目付きで見た。



「これからアジア予選に向けて練習を始めるが、その前に一言、言っておく。はっきり言えば、今のお前たちでは世界には通用しない」



世界には通用しない。確かにまだまだだとは思ってたけど、ここまではっきり言われると思ってなかった。吹けば飛ぶ紙切れ、か……。

そして監督は、あたしたちを1から鍛え直すのだと言う。だが口答えは一切許さないとも。……想像以上にハードな練習になりそうだ。



「特に鬼道、吹雪、豪炎寺、円堂。私はお前たちを、レギュラーだと考えていない。試合に出たければ、死ぬ気でレギュラーの座を勝ち取ってみろ」



チームの司令塔である鬼道。強力なストライカーの豪炎寺と士郎くん。そして、一番後ろでゴールを任されている、キャプテンの守兄。

監督が上げたのは、エイリア学園事件の中でも特に活躍した4人だ。それすらレギュラーではないんだから、世界はどれだけ強いんだろう。

それより、ちょっとだけ気になったことが1つ。一応、ないとは思うけど、確認したい。



「あの、監督」

「……何だ」

「円堂って、どっちの円堂ですか」

「……」

「あ、あはは……守に……兄、ですよね」



空気が固まった気がする。やばい。これも口答えになるだろうか。



「……円堂美波」

「っ、はい!」

「お前は何故ここにいる」

「え、」



何故、って?



「基本的にFFIは男子の世界大会だ。その大会の代表に選ばれている。この意味が分かるか」

「い、み」

「先ほど私は日本代表を吹けば飛ぶ紙切れと言った。だがお前はさしずめ塵だ」

「……塵」

「確かに、日本の中ではそれなりの実力があると言ってもいい。だが世界となれば話は別だ。女子であるお前が、男子に混ざり世界相手にどう戦う?」

「……それは、努力して」

「努力など誰もがしている。お前に出来ることは何だ?何が出来る?私に言わせれば、何もかもが足りない」

「……」

「特別枠とはいえ、チームに必要無いと判断すれば、私は容赦なく落とす」

「……はい」



……監督の言っていることは正論だ。特別枠だからって、あたしは浮かれてた。

けど、流石に堪えたな。



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