神喰物語

□02 再会
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 ルーシャはエントランスのソファの上でひざを抱えていた。
隙間に軽く顔を埋めて消灯されたアナグラの中で、ノルンのターミナルの光だけが彼女を照らす。


 時刻は午前3時を回っていた。


 待ち人来たらず、とは正にこのことであった。
あれから1時間ほどで帰ってきたサクヤとタツミ達御一行。
タツミの怪我は実はほとんど大したことは無く、掠り傷程度であったが、連絡してきた張本人がカノンであったため、
毎度のことだが誤射に動転して大怪我と言ってしまっても誰も咎めることなど出来ない。


 リッカにサクヤと話し相手が増えたのも束の間、30分ほど前に赴いた室長室から再来せよとの御達しがあったと
ヒバリの天使の微笑が向けられ、シックザール支部長の下へ急行。そこには何故かペイラー博士やツバキなどもおり、
基礎の技術を見るために、と訓練場まで連行され、2時間ほどこってり絞られた後エントランスに弾き返された。
 ちなみにその時「良いか、ルーシャ。私はお前の上官だ、わかるな?
他の者に示しがつかなくなっては困る。悪いが、以後名前に敬称をつけて呼んで欲しい」と言われ、少し苦笑。


 エントランスのソファに座っていれば居住区画エレベーターからリンドウが乱入。
どうやらデートよりお帰りのご様子で、「今度Wデートしてあげようか?」と問いかければ「お前にはまだ早い」と
突き放されシュン、とする。


 2時間ほどするとリンドウと夕飯をとりに行き、そこでサクヤと愉快な仲間達と合流。
1時間ほどでジャイアント・トウモロコシから開放され、エントランスのソファに戻ればそこでリッカから
冷やしカレードリンクなる珍妙な飲み物を手渡され、1時間ほど世間話。


 リッカが技術開発局へと帰還して行ったあと、百田ゲンさんという神機使いOBと出会い、2時間ほど
話した(極東の現状や百田さんの神機や昔話などなど…………)


 百田さんが自室へと戻った後、数分してサクヤとリンドウが登場(サクヤが配給ビール持ちという)。
その後エントランスでリンドウに晩酌すること3時間(これが中々酔わない)、サクヤと共にリンドウを自室へ連行するまで
1時間(本当に大変だった、いや本当に)、「良い子は早く寝ろ」とエントランスに残っていたブレンダンからのお説教を受け、
ついに午後12時消灯。



 ソーマ、未だ帰っては来ず。
晩酌の時リンドウが言っていた。


 「俺もサクヤもソーマにお前がこっち(極東支部)に来たって伝えようとしたんだけどよ、
  受信断たれるは、電話でねーわで断念したんだ。
  わりぃな。ソーマのやつここ6年で刺々しさが割り増ししてよ、なぁサクヤそう思わないか?
  俺が世話焼いてみたりしても昔より態度が冷めてるというか、なんというか…。
  もう、あの冷たさって極寒だぜ。深海って言葉が正しい。南極とかだと白ってイメージだけど、深海だと青っていうか──」


 後半、酔っ払いの世迷言であった。
思い出し笑いでくつくつと乾いた微笑を漏らした後、一息置いて、懐の布袋の中を探ってみた。


 手のひらの中には6年前、ソーマ宛にと思いを込めた白地に青のハートの柄をしたセロハン。
それに包まるソーダ味の飴玉。

 6年前、ソーマはあれを受け取ってくれなかったかもしれない。あの時の中身はコーラ味だったが。


 あれはルーシャの好きな味の飴だった。
白地に青いハートもルーシャの大好きな柄だった。理由は、ルーシャが初めてフェンリル本部にゴットイーターとして配属された時。
周囲から冷たく見放されていた自分をまるで、実の父親のように包み込み、優しくし、叱ってくれたベース=フィンデルが、
ルーシャに初めてくれた飲み物の味と同じだからだ。
 柄は、ルーシャの好きな白色とベースの好きな青色。ハート柄は、やっぱりルーシャの好んでいる柄だからだ。


 ルーシャの大好きなものがたくさん詰まった飴玉。
それを、ルーシャが一目見て気に入ったソーマにも渡したかった。



 手のひらの中にある飴玉を布袋の中に仕舞い込む。
肺の中の空気いっぱいにため息を吐くと、出撃、兼、帰到ゲートに視線を預け、ただじっとソーマの姿を待っていた。




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