神喰物語
□01 転属
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「おっ、時間ぴったり!」
ルーシャは右手に握り締めていた腕時計を確認して立ち上がった。
時計を丁寧にポーチに収納しなおすと、開門スイッチに手をかけた。
ガチャン……ギイィィィ………
薄暗い廊下にぱっと光がさした。
ルーシャはその真紅の瞳を静かに閉じると、ゆっくりとエントランスへと足を踏み出した。
瞼の中からでも感じる明るさに心がほっとした。
「皆に紹介する。
本日一一○○付けで本部より、極東支部へと転属になったルーシャ・アヴィリットだ。
以後、お前たちの仲間となる。ではルーシャ、詳細を」
懐かしいツバキさんの声にゆっくりと瞼を上げると、その瞬間みんな「わぁ…」とか「ぅ…」などの嫌な声を出した。
恐らくは、この気味の悪い赤い目のせいなのだろうとルーシャは少し気を落としたが、
しかたないと割り切って、期待を込めて笑顔をおくって見せた。
「皆さん、初めまして!
ルーシャ・アヴィリットと言います。神機は銃形態のブラストで、本部では衛生兵で第一部隊のリーダーをしていました。
歳は15で戦歴は6年です。皆さんとは仲良くなりたいです。よろしくお願いします!
あ、ちなみに。これはお近づきのしるしです」
白い袋から包みの色の違う飴をひとりひとりに渡していく。
何人かは「ありがとう」といって笑ってくれ、ものすごくうれしかった。
けれど、やはり何人かは無言で付き返してきたり、目を合わせずに無視したりして受け取ってくれなかった。
少し、悲しかった。
そして、最後の一人のもとへとたどり着いたとき………。
「よぉ、ルーシャ。でっかくなったな」
「……リン…ドウ?」
聞き覚えのある懐かしい声にルーシャははっとした。
ルーシャはその整った目鼻立ちを知っていた。6年前の掃討作戦でツバキと等しくルーシャに良くしてくれた
雨宮リンドウだった。
周囲の視線が「なんだ、知り合いなのか?」という訝しいものに変わる中、先に動いたのはリンドウだった。
「久しぶりだな、ルーシャ。
あんときゃこーんな小さかったのに、ずいぶんと綺麗になっちまって。
………………………………これじゃあ、ソーマのやつもほっとけねえなぁ」
ルーシャの頭の上にその大きな手をポンッと置くと、あの頃より少し大人びた顔でニッと笑った。
最後に付け足した言葉は口ごもりすぎてよく聞き取れなかったかが、この6年間意識し続けていたワードが
含まれていることに気付き、即座にリンドウに問いかけた。
「リンドウ、ソーマは?」
その言葉に「ソーマとも知り合いなのか?」といった視線が交差するが、そんなのもろともせず
先に口を挟んだのは教官のツバキだった。
「私語はそこまでだ。それ以上の会話は解散後にしろ。
ほら、皆静粛に。………いいな?これで召集を解散する」
「ルーシャは一二三○に支部長室に足を運ぶこと」そう告げると、ツバキは忙しいのか、
足早にエレベーターに向かうとエントランスを後にした。
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