神喰物語
□01 転属
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「姉上、今日は何の集まりで?」
「リンドウ、ここではそう呼ぶなと何度いえばわかるんだ?」
「ははっ、……すみません」
リンドウは諦めて会釈をすると頭の後ろで軽く腕を組み、きょろりと辺りを見回した。
離れたところにジーナとカノンが立っている。配給食材でアップルパイを作る計画をしているようだ。
その隣にカレル、シュンの悪友2人組みが何やらいつもの良くない噂話をしながら
突っ立っている。手持ち無沙汰に突っ立つタツミの目は、主にエントランスの端に立っているヒバリに向けられている。
人の輪から少し離れたソファにブレンダンが座っている。そのとなりにはゲンさんがいる。
どうやら世間話でもしているようだ(まぁ、話題に出せるような世間様でもないが)。
更に人の輪から外れたところにリッカとサクヤがいる。
そういや、サクヤのスナイパーがいかれちまって直しに出してるって言ってたな。
ついでに、そのせいでサクヤと二人で行くはずだったコンゴウ6体、ヴァジュラ1体、コークメイデン12体の
とにかく面倒くさそうな任務にソーマは一人で借り出されている。
あいつが今ここにいないのはそのせいだ。
「……ふむ、時間だ。よく聞け、お前たち」
「おっ」
召集を出してから5分近くだんまりだった姉上、基、教官がようやくその声を発した。
凛とした響きにエントランスが即座に静寂に包まれる。
「本日お前たちが集められたのは他でもない、フェンリル本部から
新しく1名ゴットイーターが転属してくるためだ」
突然知らされた朗報に一時全員が唖然として、互いに目を配らせる。
そしてようやく意見が一致したように視線を教官に戻した頃には、もうそのアルトは放たれていた。
「あと10分ほどで到着する。遅刻があってはならないよう、15分前行動だ。
新しく転属してくるゴットイーターは、今フェンリル内で騒がれている”新型”ではないものの、
隊長レベルに匹敵する戦闘能力を有しているベテランのゴットイーターだ。
戦線にて、すぐに足元をすくわれないように協力の下、尽力してもらいたい。
それから───」
「悪いんだけど、遅れてしまいました教官。
もう一度一から説明しなおしてもらえるかな?」
全員が素直に教官の話を聞いているさなか、教官のイライラの種がにょきっと顔を出した。
体中に朱色のペイントを施し、派手な服装に、これまた派手な赤茶の髪の富裕層出身・自己中よろしくのエリックだ。
説明を中断された挙句、失礼極まりない態度をとられ即座に声を引っ込めた教官の、
冷め切った表情に周囲は瞬間冷却されたようにピシッと凍りついた。
「……エリック。私は時間厳守だと、そう連絡を入れたはずだったが?」
「いやだな、教官。小耳に挟みましたが、”新人”が来るんですって?
だったら到着時刻までまだ5分あるじゃないですか。多少遅れたって問題ないでしょう?何故時間厳守なんです?」
「本気でわからないのか?召集したからにはその理由を説明する義務がある。
その説明時間を計っての15分前だ。お前もそれくらい──」
「はぁ?教官。そんなの僕が来てから説明すれば良いじゃないですか?
全員集まってから説明しなくちゃ、僕だけに情報が入らなくなってしまう。そこをちゃんと考慮してくださらないと」
「………エリック、お前は集団行動の何たるかをわきまえていないようだな」
啓発なエリックに対し、終始絶対零度で対応しきった教官の双眸には
弟のリンドウでさえ逃げ出したくなるほどの燃え滾るような怒りが武者震いしていた。
「────話を戻す。それから、今回転属してくるゴットイーターは本部での地位が
隊長格だったため、極東支部でもベテラン区画に部屋が設けられる。」
説明は以上だ。と言って教官は出撃ゲートを横目に見た。
話を中断されたエリックだったが、少しむっとした表情をしてから口論戦線を離脱した。
ガチャン……ギイィィィ………
出撃ゲートの開く音に、全員がはっと身構えた。
ゆっくりと姿を現した白金の流れるような長髪にリンドウはフラッシュバックしたように一人の幼女の姿を
連想した。
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