神喰物語

□【03】 過去編
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 ツバキがふう、と息を吐き出す。
融合炉内の荒神が全て駆逐され、ツバキ、リンドウ、ソーマ、ルーシャは一箇所に集まっていた。

 神機を構えたまま、辺りを軽く見回す。敵はいない。
…………そのとき!



     バラバラバラバラバラバラ



 聞きなれた連続音。
はっとしてリンドウが空を仰ぐ。


 ルーシャは愕然とした。
連合軍の大型ヘリが融合炉から逃げるように飛び立っていく。


 「なっ!おいっ、あいつら何で退いてくんだ!?」

 「くっ、見捨てるつもりか!!」


 リンドウの声にツバキは苦々しげに顔をゆがめた。


 ルーシャは呆然として声も出なかった。
なんて汚いことをするんだろう……。ただ、人類最後の常識人たちに見放されたことが苦しかった。
まるで、お前と我らでは住む世が違うと言われているかのように。
まるで、お前のような化け物とは永久に分かり合えないだろうと言われているかのように。

 つぅっと冷たい涙が頬を伝う。
けれども、前方に感じた大量の荒神の気配にゆっくりとブラストを構えなおした。


 「………まだ来る」


 ソーマの言葉にツバキとリンドウがはっとして神機を構えなおす。
リンドウの瞳が少し心配そうにルーシャを見つめていた。


 「くっそー!このままじゃもたねえっ」


 融合炉の明るさと反比例して吹雪く暗闇からわらわらと幾多の荒神の影が
垣間見える。ソーマの目はぞっとするほど真っ直ぐに荒神たちを見つめていた。



 「……っ、」


 その時、唐突にルーシャが膝をついた。
リンドウやツバキ、ソーマもはっとしてルーシャを見つめた。
視界が恐ろしいほどガクガク揺れ、全身を強酸で溶かされているかのように熱い激痛が走った。
腹のそこから胸のずっと奥を通り、不吉なものが沸きあがってくる感覚が指先へと伝わる。
ルーシャははっとして小さい両手で口元を覆った。

 リンドウが駆け寄る足音がやかましいほど鮮明に聞こえる。
 鼓動が世界の全てを埋め尽くしたかのようにいちいち爆発を繰り返し、早鐘を打っている。


 「おいっルーシャ!お前やっぱり、体調がよくないんじゃ……ぇ、っわぁ!?」


 またも不吉な吐き気がわき上がってくる。
ぞっとして、リンドウを拒むように押し払った。


 「ぅっ……くっ!かはッッ…」


 びちゃびちゃと痛々しい音を立てて、ルーシャの瞳よりもどす黒い色をした赤い血が
地面に大きく広がる。
 真っ赤になった手で自分の肩をきつく抱く。


 またいつもの”発作”だった。
この発作を止めることは誰にも出来ない。ただ、体とある”成分”が完全に一体化するまで
この発作に耐えなくてはならないのだ。
 もちろん、薬などない。
ルーシャはこの発作のお陰で、神機を持って戦うのはせいぜい2時間が限界だった。
否、最早立っているだけでも2時間が限界で、定期的に座って休まなければならないし、
不定期にやってくる痛みの波に、溢れ出る涙はいつだって止まらない。


 「ルーシャ……お前……」


 ツバキの悲痛そうな声、心配そうに背に添えられたリンドウの手、ルーシャを囲む2人の前に
ルーシャをかばうように荒神たちに神機を向けるソーマ。
 ルーシャは、また自分の無力さに涙が出そうになった。



     キュゥゥ…………


 ふと、耳の中に何かの音が届いた。
まだ、誰も気が付いていない。

 音の元を探そうとルーシャはこわばる体を動かし、そっと背後を振り向いた。リンドウとツバキはそれに反応して「……どうした?」と
呼びかけてきた。

 そしてその直後にソーマもぴくんと何かに反応し、そのまま振り向くと神機をおろし、ぱっと身構えた。
リンドウとツバキが一瞬いぶかしげな表情をしたが、それもすぐに終わった。



     キュゥゥウウ ドゴオォォォオオオオ



 激しい爆風と轟音がルーシャたちを襲った。
みんな無意識に手を交差させて構える。リンドウはルーシャを抱えるようにかばい、
ソーマとツバキはその二人の周りに駆け移り、衝撃に負けないように身構え、足元に懇親の力を込める。
 毒々しいほどに燃え盛る爆炎と砂をかき乱すように吹き飛ばす豪風に目が開けられない。
空間が消えてなくなるほど強大な爆発に全てが飲み込まれた。




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