神喰物語

□【02】 過去編
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 生ぬるい作戦会議が続く。

 人間はなんて愚かなのだろう、ソーマは思う。
仮にも軍人の生き残りである大人たちが、何も荒神を見たことがないなんてあるはずもないだろう。
 それに、この地球に住んでいて荒神に遭遇したことがないのであれば
かえって、どういう奇跡の巡り合わせなのか聞いてみたいものだ。


 話を戻すとして、そんなただの人間では食べ物同然に食い散らかすことのできる荒神に
こんなぬるい作戦が通用するはずがない。
 第一、この作戦で集まってくる荒神なんてのは多くたって数千やそこら……。
この星に人より多く存在し、今も尚おぞましいほどの速度で増え続けている荒神を殲滅だなんて
滑稽を超えて甚だしい。

 自分たちの無力さをちゃんと理解した上での作戦なのか、もうそれすら定かではない。
まるで、自分だけは例外で死ぬことはないだろう……というあまい考えが滲んでいるかのように、
まるで、自分だけは神機使いなどには負けることはないとでも言うかのように、
まるで、少なくともあんな少女には負けることなど絶対にないとでも言うかのように。

 だから大人たちは、ルーシャの優しさにまるで気が付いてはいないのだろう。と、ソーマは思った。


 また、ふと。コバルトのコートからのぞく自分の褐色の指先に目をとめる。
無意識にルーシャの笑顔が思い浮かんだ。
 包み込んだ手の怖いほど温かな、心地よい温もり。
邪気など欠片も感じさせないやわらかすぎる笑顔。
旋律のように綺麗で愛らしい高音の声。
深紅の透き通った大きな瞳。

 ただ、ひとつだけ。ルーシャの惜しいところは、ソーマと同じ髪の色をしていること。
髪質こそ違うが、その色はソーマが忌み嫌う色としてその脳内にインプットされ続けていたもののひとつだ。
 ソーマは、同じ髪色であることでルーシャに申し訳ないでいる気持ちが沸いた。


 自分は神機使いの中でも異型や化け物に部類される存在なのだとソーマは感じていた。
神機使いのつける腕輪からは神機を操るための偏食因子が一定時間に一定量
打ち込まれる。腕輪から神機使いへと送られる偏食因子はP53アームドインプラントという
種類で基本的に安全性と適合率が高い。
 が、ソーマにはP53偏食因子などは打ち込まれていない。
第一、腕輪などつけていなくともソーマは神機を通常通りに操ることが出来る。


 その自分の思考に、ソーマは一瞬目を細めた。
その表情は悲哀とも自嘲ともよく似ていた。




     ──ズゥゥ……ン  ズゥゥ……ン──




 精神を抉り出すような気配。


 「……っ!!」


 ソーマは勢いよく立ち上がった。
視線は作戦指令基地の天井を貫き、目には見えない遠い存在へと敵意をあらわにしていた。



 荒神が、来た。



     ズドォォンッッ


     ブーーッ  ブーーッ  ブーーッ



 空間を揺らがせるほどの爆発音のあと、けたたましい警報が鳴り響く。
屈強な部隊員たちは呆れるほど慌てふためき、「なんなんだ」「いったいなんだ!?」「荒神がきたのかっ?」
と各々無駄な問いを駆け巡らせる。


 すぐ脇を、立てかけた神機をとりにやってきたルーシャが駆け抜けていく。
次に、間髪いれずに上ずったルーシャの声が鼓膜を振るわせた。


 「ソーマっ!」

 「ああ、来やがったッ」



 大尉の指示で部隊員たちが次々と部屋から飛び出していく、先ほどの「ヘリの誘導」をしていた男が
人ごみからこちらに滑り込んできて、ソーマたちを連合軍のヘリへと導いた。




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