神喰物語

□【02】 過去編
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 笑顔だったルーシャがふっと、何かに気をとられたようにくるりと横を向いた。
視線の先には、最近極東支部に入ってきたばかりの少年、ソーマがいた。
 色の抜けきったような白金の髪、灰に近いコバルトの双眸は冷たく、態度はどこか棘を感じるが
それは自分に秘めた何かを隠すための強がりでしかないことを、見る者が見ればわかってしまう。


 ルーシャはじっとソーマを見つめる。
その視線は決して冷たくはない。ただ、何か溢れ出しそうな……探り出すような、けれども
愛するような……。
 言葉では口に出来ない神秘的な真紅の瞳はまるでソーマ以外何も見えていない。


 ふいにルーシャが動く。
ソーマに向かって一直線に。
脱力したかのように…けれど、警戒や敵意、殺気を決して忘れてはいないソーマの前にヒョコっと向かい立つ。

 座ったソーマと比べても、やはりルーシャは小さかった。
今の状態のソーマと頭ひとつ分ほどしか違わない。そのルーシャがソーマに向かって両手を伸ばす。
 そのまま優しく笑った。


 「ルーシャって言うの、あなたは?」


 その声さえ、笑顔さえ届いているか定かではないソーマのためにルーシャはしばらく同じ体制で
待っていた。決して作ったような、ずっとそのままでいると、だんだん引きつるような……そんな笑顔ではないことが
すぐにわかった。
 その表情は、ただ純粋に答えを待っている。ソーマの声だけを待っている。
そして、決して愚かではないソーマにはそれが見て取れたのだろう。


 「………ソーマ」


 片手だけ伸ばして、ルーシャの両手を握った。
ソーマの片手は、ルーシャの両手よりも大きかった。


 そのルーシャの笑顔のまぶしさに一瞬、ソーマはめまいしたかのように見えた。
そして、突然はっとして何かの恐怖から逃げるかのようにさっと手を引き戻した。

 きょとんとするルーシャを射殺すかのような敵意と孤独と恐怖に満ちた目で睨み付ける。


 「…………質問には答えた。もう、話すことはない」

 「………!」


 ルーシャは一瞬、傷ついたかのように目を伏せた。
そして、何かが点がいったかのようにゆっくりと視線を戻した。
こんどは、慈しむようにぼうっとした瞳でソーマを見つめる。その瞳は息を呑むほど美しかった。


 「………うん、今日はよろしくね。……じゃあね」


 名残惜しそうにソーマを見つめると、一瞬その瞳は悲しそうに潤んで見えた。




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