神喰物語

□【02】 過去編
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 ツバキは静かに感動していた。


 まだ年端もいかない幼い女の子が、たったひとりで本部から派遣されてきて怖くないはずがない。
泣いているのは、そのせいだと思っていた。


 が、女の子の瞳を見た瞬間その思想は同情から感動へと変わった。
女の子のその瞳は、まるで紅蓮の満月のよう。
薄暗い闇の中でぼうっと光る怪しさも兼ねているが、その女の子の本質を表すかのように
瞳はクリアに透き通り、キラキラ輝いていた。


 血を分けた弟リンドウもその女の子の魅力に気がついたかのようにじっと、女の子を見つめている。
煙草の煙が手持ち無沙汰に宙へ消えた。



     トテトテトテトテ……


 華奢な足とは不釣合いの大きなブーツをはいた女の子は、神機使いとは言え、可愛らしく
年相応にヒョコヒョコとこちらに歩いてくると、驚いたことにツバキの目の前でぴたりと止まった。


 病の気を漂わせる淡い色をした白色の肌。
その中に浮かぶふたつの真っ赤な瞳がまるで何かを期待するかのようにキラキラ輝いていた。
 まるで心のうちを見透かすかのようにじっとこちらを見つめている。

 少しして。
女の子は長い袖を少しだけまくり、小さく、暖かそうな両手をツバキに向かってぱっと伸ばして見せた。
その腕には、やはり神機使いの証でもある腕輪がはまっていた。
 女の子の腕があまりにもか細いので、それはまるで奴隷にはめられる枷のようにさえ思えて
少しだけ心が痛んだ。


 けれど、またもツバキは驚愕し感動した。


 今まで見たこともないような優しく、ピュアな笑顔が自分を見上げて光っていた。


 「ルーシャって言うの!今日はよろしくお願いします!」


 ツバキは思わず頬が緩んでいくのを感じた。


 「雨宮ツバキだ。私たちは極東支部で活動している、よろしくな」


 女の子、基、ルーシャの小さな両手にこちらも両手で握り返す。
ツバキの手で包み込めるほど小さく、血の気のいいとは思えない白い肌にしては相応に温かい体温に
内心どこか「よかった、この子も人間なんだ」と安堵している自分がいた。



 「おっ、自己紹介か?ちっちぇえのにしっかりしてんな。
  俺は雨宮リンドウ。苗字からわかるかも知れないが、こちらツバキお姉様の弟にあたるってワケだ。
  ね、姉上」

 「リンドウ。姉上と呼ぶなと何度言えばわかる?形式上、お前は私の部下だ」

 「ははは……;」


 苦笑いを浮かべながらも、やはりさすがはわが弟。
優しい目でルーシャのやわらかい髪をポンポンと撫でてやっている。
 ルーシャは不思議そうに言葉を続けた。


 「チュ…バキィ?……リ…ントー?………変わった名前」

 「そうか?……そうか、発音が難しいか。
  チュじゃなくてツだ。
  言えるか?ツバキだ。ツバキ」

 「チュ……ツゥ……ツ…バキ、ツバキ!!」

 「お!上手いな。おし、リントーじゃなくてリンドウって言ってみ?
  慣れりゃあ簡単だ。ドウだぞ?言えっか?」

 「ト…ドー…ウ?…ドウ、リンド…ウ、リンドウ!できたぁ」


 ルーシャのあどけない笑顔にツバキたちも優しい顔になる。
程よく高いルーシャの声は小声ながらもしっかりと耳に届いた。




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