神喰物語
□【01】 過去編
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男は窓から見た光景に多少の諦めと膨れ上がる憤りを感じた。
「どういうことですかな?シックザール支部長。
この大事な作戦を前に、フェンリル極東支部からの支援は”たった3名”だと、そう本部に報告しろと?」
携帯通信機器を通し、その”3名”を送り込んできたフェンリル極東支部 シックザール支部長殿に
怒りの念をぶつけては見るが、その男はこちら側を見下したような声色で理屈を述べる。
その支部長殿の話によると、
窓を介してみたティーンエイジャーと呼べるほどの3名は各個体だけで一個大隊にあたる
戦力を保持していると……
今回はこちら側(連合軍)が主導となりリードを取る作戦、故にフェンリルは後処理担当なのだと……
わざとらしく自身等を低めて言うものだから言い返し様がなく、ただ無念にも
うなり声を上げるだけに留まってしまう。
その反論ですら言い包めるかのように今回の作戦を愚息の初任務と表し、今度はこちらを貶めて
反応を楽しんでいるかのようだ。
そして、よろしくの言葉を残し、通信は一方的に絶たれてしまった。
「くぅっ!」
悔しさと怒りに任せて通信機器をぶん投げる。
木製のデスクに屈強な腕をどんと叩きつければ、自ずとこめかみに筋が走っていく。
「あれが荒神に対抗できる唯一の存在神機使いだと!?ただの子供じゃないかっ!」
「まったく腹立たしい話ですね。あんな連中に取って代わられるなどと……」
苦悶の声を張れば、補佐の男が血色の悪い顔にしわを寄せる。
「認めはさせんよ。……この作戦が成功すればな」
吐き捨てるように言う。
けれど、あとに付け足した言葉には自信以外何もなかった。
「それにしても……」
補佐官はちらりと部屋の端に視線を投げる。
そこにはまだ小学校も卒業しきれていないほどの少女がひざを抱えていた。
肌は降り続く雪のように白く、肩から腹にかかるほど長い髪はアルビノ化したような金だ。すぎるほど華奢でまぁ小柄な体は
掴めば折れそうなほどにひ弱に見える。
が、それと不釣合いにその傍らには軍人大尉である自分でも物騒であると思えるほど大きな、
いかつく、機械質な神機が立てかけられていた。
ざっと、少女の3倍はある。
「フェンリル本部よりは……幾分ましな対応でしたな」
そう、いったい連合軍の何を見下してかフェンリル本部から送られてきた支援の神機使いは
この片手で軽くぶてば死んでしまいそうなほどか弱げな幼女の神機使いであった。
その知らせに耳を疑い、絶望し憤怒した軍人は少なくはない。
補佐は冷たい目で少女の下へと足を進める。
「立て。これより最終作戦会議の時間だ、貴殿はそこで同種の者たちと同行してもらう。
わかったらそいつを持って私の後へ続け」
少女は数秒間を置いた後、前触れもなく顔を上げた。
涙で濡れた頬は病的なまでに白く、上げた瞳は大きく、紅蓮だった。
まったくもって、気味の悪いものだ。
少女は真っ白なだぼついた服の袖で静かに頬をぬぐうと、小鹿のようにヨロヨロと立ち上がり、
その純真無垢な存在とは本来並ぶことのない巨大な武器を片手で引きずるように持ち上げた。
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