夏物語

□02 夏希お姉ちゃんの彼氏サン
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私たちは少し遅れて朝ごはんに向かった。
繋いだ手を佳主馬に引かれ、テレビの前の丸テーブルに導かれた。

丸テーブルの上にはもう金平ごぼうの大皿と、たくあん、お箸と麦茶が用意されていた。


斜め向かいには既に警察の制服に着替えた翔太お兄ちゃんが座っていた。
少しこちらに目をやり、小さく「おはよう」と零す以上に、もう佳主馬には突っかかって来
なかった。

たぶん、佳主馬の態度でどうして佳主馬が陣内から私を遠ざけたのかがわかったのだと思う。


丸テーブルには他にも栄おばあちゃんと聖美さんが座っていたけど、
2人とも訳知り顔で麦茶をすすっていた。


テレビの中では調査衛星の「あらわし」がどうとか、なんとかで。
ここ最近、毎日同じ報道な気がする。
その間もずっと。丸テーブルの下、佳主馬と私の間で指は離れることなく、ずっと触れ合っていた。

その時だった。


「聖美ー翔太はー?」


台所の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。足音とともにこちらに近づいてきて、
懐かしいその人は、風通しのために和紙を剥がされた襖の間からチラリと葉月を見つめると、
少し目を細め、すぐに見開くと「あああああ!!!」と声を上げ駆け寄ってきた。


「アンタ!葉月じゃないの!!
 ここんとこ、ずーっと居なかったからみんなで心配してたのよー!
 聖美も佳主馬はなーんも喋んないしさー?ま、元気そうで良かったんだけどさー」


「何か大きくなったじゃーん」と笑顔で私の頭を撫でてくれているのは、聖美さんのお姉さんの直美さん。
バツイチの独身で、怒ると怖いけど、面倒見の良い優しい人だ。葉月も良く世話を焼いてもらっていた。

けれど、葉月に向けられた笑顔もひと時のものだった。


「っつーか翔太!アンタ、葉月が来てるんなら、もっと早くにいいに来なさいよ!
 だいたい、佳主馬呼んできたら食器並べるから手伝いなさいって言ったわよね!
 何くつろいでテレビなんて見てんの!?
 ちょっとは働きなさいよねー!警察でしょ?アンタ!!」

「んだよ、るっせーなあ!!
 こっちにだってそれなりの事情があんだよ!
 俺には朝ゆっくりテレビ見る時間もねーのかあ!?あぁ!!?
 だいたい、警察は関係ねーだろっ!!」

「何よ!その口の利き方!!
 年上には敬語使いなさい!敬語!!
 だいったいアンタこそ「おやめよ!」ぇ・・・おばあちゃん」


見かねた栄おばあちゃんがようやく喧嘩の仲裁にかかった。

いつのまにか、佳主馬の腕が私の肩を抱いていた。
人の怒鳴り声にビクビクしていた私を怖がらせないようにと、その心遣いが凄く嬉しかった。

聖美さんも安堵したような表情で、また麦茶をすすった。


「2人とも、見っとも無い真似はよしな。
 年上の者は常に若いものの手本となるもんだよ。くだらない言い争いで、
久しぶりに家にやってきた葉月を怖がらせてどうすんだい。
 ここには身重の聖美もいるんだ。
 あまり疲れを与えないように、わかったね?」


さすがは栄おばあちゃんだった。
2人の性格を良く知っているからこそ、頭ごなしに叱ったりせず、
静かに諭して事を終わらせてしまった。
直美さんも翔太お兄ちゃんも互いに反省したようで、
翔太お兄ちゃんは遅刻しないようにと早めに交番へ出勤して行った。
今日は定時で帰ってこれるらしく、「昼前には家に着く」と報告して、自家用車で家を出た。

直美さんは「じゃ、あたしはお茶碗取ってくるねー」といつもの調子に戻って、廊下を戻っていった。

みんな何事もなかったように各々の時間をすごしたが、
佳主馬の腕はまだ肩を抱いたままだった。
そして、そのぬくもりは思っていた以上に安心した。



直美さんが戻ってきたときは、万里子さんも一緒だった。
小脇におひつを抱え、みんなにおはようを言った。

そしてそのまま、少しきょろりと周りを見回すと、フッとお茶碗を見て呟いた。


「・・・あら、翔太は?まだご飯食べていないでしょうに」


栄おばあちゃんは少し目を伏せて麦茶をすすったが、
聖美さんは「コンビニで何か買うわよ」と回ってきたお茶碗に箸を付けた。




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