夏物語

□01 陣内家
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  ミーンミンミンミンミーーン・・・

  ジリジリジリジリ・・・ カシャカシャカシャッ

「ふ〜・・・暑いわねえ・・・」

「名古屋より暑い・・・」

『聖美さん・・・お腹の赤ちゃん大丈夫ですかぁ・・・?』

「ええ。大丈夫よ。」




名古屋の駅から新幹線、電車、バスと乗り継ぐこと幾時間・・・。
今私たちが歩いているのは周囲を林に囲まれた、直射日光が降り注ぐ一本道。


被りっぱなしの白フード、見た目は軽くても案外重いリュック、蝉の鳴き声、
砂利砂道・・・そんな全てが、佳主馬と繋いだ掌から伝わる温もりと、そのせいで
いたずらに高鳴る鼓動に吸い込まれるかの様に如何でも良くなってしまう。


私は基本寒がりなワケであって、決して今・・・この状況が暑いというワケではない。でも、
佳主馬にとっては暑いのだろう・・・。いや、相当暑いはず!!


だって佳主馬、暑いって言ってるし・・・。汗だってかいてるし・・・。
まあ、確かに?
上田の今日の気温は32℃・・・だったはずだし・・・?


ちなみに私はあまり暑がりじゃないから、あまり汗はかいてないけど。

まあ・・・、そんなどうでも良いことは置いといて・・・。


そんな絶対暑いであろう佳主馬が、わざわざず〜っと私と手を繋いでいてくれるのは何でなんだろう?
これこそ不思議で不思議でたまらない・・・・。
でも・・・、やっぱり理由を聞く気にはなれない。だって・・・、
「じゃあ、いい。」って手を離されちゃったら・・・わたし



「うるさいなあ・・・さっきから・・・」

『・・・・はい?』

「はい?じゃないでしょ。この暑いのに・・・一人でブツブツ喋って・・・葉月は暑くないわけ?」

『・・・・口に出てた?』

「ばっちり出てた。」

『・・・』

「で?どうしたの。」

『あのさ・・・』

「ん。」

『佳主馬・・・あっついんでしょ?』

「だからさ・・・そう、言ってんじゃん。」

『じゃあ・・・さ・・・』

「・・・何?」

『なんで私と手、繋いでくれてるの?暑くないの??』

「ああ・・・なんだ。そんなことか。」

『えっ!?そんなことってなぁに!?そんなことって!』

「葉月の手・・・冷たくて気持ちいいから。」

『・・・・え?』

「だから、葉月の手・・・冷たくて、気持ちいいから。」

『私の手って・・・冷たいの?』

「うん。」

『え・・・でも・・・』

「さあ!着いたわよ。」



「でも・・・そんなに言うほど冷たいかなあ?」そう言おうとした矢先、
聖美さんの嬉しそうな声が私の疑問を断ち切る。


佳主馬と同時に上げた視線の先には、私が4年ほど顔を出していなかった懐かしい陣内家の本家が
佇んでいた・・・。
最後に私が来たときと、全然変わらない大きな古い門に、太陽に向かって伸び伸びと花を咲かせる
キレイな朝顔たち・・・。


全然、変わってない・・・。
自然と柔らかに持ち上がる口角。

元はと言えば、私たちがまだ小学4年生だった頃・・・
突然佳主馬が「葉月は連れて行きたくない!」と宣言したのが始まりだった。
当時から冷静沈着でいつも平静だった佳主馬が声を荒げるものだから、お父さんもお母さんも、
聖美さんだってびっくり。


それと同時に、私の心はどんなに傷付けられたか・・・。

それなのに・・・。





題名:緊急
From:佳主馬
 To:葉月
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明日。長野の上田にある陣内の本家に
行くから
葉月も来てよ
拒否権はないから





なあんて、無茶苦茶なメールが届いたのは昨日の夜9:40のことだった。



まあ、何はともあれ!
そんな無茶苦茶な恋人である、最愛の佳主馬と一緒に
最も思い出深い陣内家に再来できたのは、なんかもう・・・物凄く嬉しいことであって・・・。



この時、私は考えても見なかった・・・・。
この夏休み、あんなに凄いことが・・・・、あんなに辛くて、苦しくて、大変なことが起きるだなんて・・・・。

まだ、私は知らなかった・・・。




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