神喰物語

□【03】 過去編
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 ソーマは爆風をすり抜け、更に追い討ちをかけるように暴れるボルグ・カムランと交戦する。
巨大なサソリの尾のようなものが地面に鋭く突き刺さり、俊敏に動き回る。が、やはりソーマの相手ではない。
ボルグ・カムランの隙を突き、懐に滑り込むと激しい一撃で早々に沈めた。



 荒神は思いのほか強力ではなく、ただ捕食のためだけに核融合炉をおとずれた
経験の多くない比較的容易い部類だった。だが、数が異様に多くこれではスタミナが持つに持ちきれない。
 神機は、相当な使い手ならば荒神をいとも容易く駆逐することの出来る武器だが、
一気に大量に倒すことが出来ないのが難点なのだ。


 数十メートル背後のリンドウの声にくるりと振り返る。そこには既に息絶えたコンゴウが一体伏していた。
神機を捕食形態に変え、そのまま近づく。鈍い音を立てながら神機に捕食をさせていると、小さな悲鳴が
聞こえ視線を流すように音源を捜す。


 が、すぐ下にそれはいた。
軍人の男が返り血を浴びてこちらを畏怖の目で見上げている。
 何故だか、心の中で自嘲した。



 「ソーマ!」

 「……?」


 戦場で名を呼ばれぱっと振り向く。
100メートルほど背後にこちらへ駆けてくるツバキとリンドウの姿があった。
核融合炉を挟んでもう反面にはまだ溢れんばかりの荒神がひしめき合っており、あれらの荒神を
殲滅するのは骨が折れるだろう。と思考したところで、ソーマは恐ろしい異変に気が付いた。


 「………ルーシャはどうした?」


 疑うような声色で問うと、ふたりは取り巻くようにしてソーマに告げた。


 「ルーシャが荒神を一気に殲滅する術を思いついた。ルーシャは今、その準備をしている。
  リンドウとソーマにはこちら側半面を頼みたい。危険だと感じたらすぐに援護に向かってきてほしい。
  作戦の内容はリンドウから聞け、私はルーシャの支援に回る」


 事務的な報告を終えたツバキは急いでルーシャの元へと戻っていった。
ソーマは何故か異様に胸がざわつき、今すぐにルイの下へと駆けつけたい衝動に駆られた。
 だが…、リンドウに立ちはだかるようにしてとめられた。


 「…………」


 無意識にリンドウを睨み付ける。


 「まぁ待て。ソーマ、作戦を説明する。この作戦はまずルーシャが……っとー。悪いなソーマ。
  倒しながら聞いてくれよ」


 諦めてリンドウの説明を受けようとしたとたん、コンゴウ一体がリンドウの後頭部めがけて
殴りかかってきた。ふたりで一斉に飛びのくと、リンドウが尾を切り落とし、ソーマが後頭部を
滅多切りにし駆逐した。

 それが合図か何かのようにいきり立った荒神たちが波のように押し寄せてくる。


 「いいかぁ!ソーマ、よく聞けよ。この作戦ではまず、ルーシャが囮になって誘い込んだ荒神を、ある特定の円形状の枠の中に
  集め、銃形態でアサルトタイプの姉上がその円形状の枠のまわりに連弾で穴を開け地層をもろくする。
  そして、銃形態でブラストタイプのルーシャがでかいのを一発円形状の枠のど真ん中にあてる。
  そうすると地面が吹き飛び、もろくなった地面が爆発でひっくりかえるってわけだ」


 リンドウは最後に「すげえよな。ルーシャの考えた作戦なんだぜ。じゃあな、死ぬんじゃねえぞ」と言い残し、
自分の前方にいたコンゴウの群れを討伐しに駆け出して行った。


 ソーマは荒神がほとんどいなくなったこちら側の反面を見回し、ルーシャたちのいる方へと目をやった。
ツバキが地上で走り回り、ルーシャは宙に浮遊するザイゴートを踏み台にすると同時に討伐しながら
上空へと翔け上がっていく。

 荒神の血なまぐさい鮮血の漂う風に吹かれた髪は、朝日のようにやわらかくなびいていた。


 ソーマは感覚の全てを遮断したような状態になり、ただルーシャだけを見つめていた。
そのとき、ぱっと唐突にこちらを向いたルーシャと視線がばっちり繋がった。ソーマはその切なげな深紅に息を呑んだ。




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