神喰物語

□01 転属
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    コツコツコツコツ……


 機械質な床。ターミナルに繋がる配線の入り乱れた壁。
あの旧ロシア地区で行われ、失敗に終わった荒神掃討作戦から6年が経った。

 ルーシャはあの頃よりずいぶん長くなった自分の足を見下ろしながらゆっくりと歩いていた。
当時にして若干9歳だったため、ルーシャは15歳になったばかりだった。


    コツコツコツコツ……


 髪は6年前と変わらず腰まである褪せたブロンド。
瞳は心なしか深紅を増したようにも見えた。顔立ちは幼さが残れど、ずば抜けて美しくなり
華奢だった体は多少女性らしくなった。

 腰紐にぶら下げてある白い布袋の中からセロハンのかさ付く音が
微かに聞こえる。


    コツコツコツコツ……


 形の良い淡い唇が柔らかく弧を描く。
ルーシャ自体、”ここ”に来るのは初めてだった。

 幸せそうに目を細めるルーシャの思考にはある一人の少年の横顔が
くっきりと焼きついていた。


 「ソーマ……」


 つぶやいた矢先、その真紅の瞳が溢れそうに輝いた。
ゆっくりと顔を上げると、ルーシャは出撃ゲートの前に立っていた。

 腰のポーチから時計を取り出して時刻を確認。


 「………あっ、……」


 集合時刻までまだ30分もある……。
しばしそのままの姿勢で固まったルーシャは、静かにため息を吐いて
壁の際にうずくまった。





 ルーシャは今日、”フェンリル極東支部”に転属になった。





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