夏物語
□01 陣内家
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「葉月・・・まだ?新幹線、遅れるんだけど・・・」
『あっ・・・ちょっ!ちょっと待って!!』
「それ、言ったの4回目。」
『でも、もうちょっとで終わるからぁ!』
「口動かす前に手動かしなよ・・・;;」
『うぅ・・・』
01:陣内家
「はぁ〜・・・」
『だから、ごめんなさいって・・・!』
目の前で僕に向かって必死で頭を下げる少女。
真夏の熱い季節にもかかわらず、その体は白い長袖のパーカーに包まれていた。
『ホントにホントにホンットにごめん!!』
「乗り過ごしちゃったじゃん。特急。」
『だって・・・だって・・・。楽しみで眠れなかったんだもん・・・。』
涙で潤んだ、大きい瞳が僕を真っ直ぐに見つめてくる。
今にも零れ落ちそうな程に涙の溜められた瞳からは「許してください」という
思いがありありと伝わってくる。
まったく・・・・・
反則だ/////
ふいっと顔をそらせば「ごめんなさいってば・・・」という悲しげな声が耳を突く。
恐らくは、僕がそれほどまでに怒っているものと勘違いしたのだろう・・・。
盛大に赤面しているはずの僕の頬には気が付いてないようで、内心ほっとしている。
例年、この季節に日焼ける肌に感謝した。
まあ、当たり前のことを言うけど・・・
そんな表情をされてまで、好きな子のことを叱りつけることのできる男が居るのならば、
是非とも一度見てみたいものだ、と
今、ここで長野行きの特急に乗り遅れてしまった少年・・・佳主馬はじんわりと思うのであった。
だが、その佳主馬の隣で零れんばかりの笑みを浮かべている佳主馬の母・・・聖美はその初々しく微笑ましい光景を優しく見守っていた。
もうすぐお腹の子の兄となる佳主馬とその息子とは長い付き合いで、このお腹の子の義姉となるであろう(否、なってほしい)
葉月のこんなにも微笑ましい姿、母親彼女は微笑まずには居られなかった。
「(一時期はどうなることかと思ったけれど、まぁこんなに良い恋人同士になって!
佳主馬のあの顔、あの子があんなに人間らしい顔するだなんて・・・。お母さん嬉しいわ。)ふふ・・・」
ゴゴーーーッ キィーーーーッ
「あっ・・・次の来た。」
『ぁ・・・よ、良かったぁ〜・・・。』
「はぁ・・・まったく。葉月がもう少し早かったらもう一本早いのに乗れたのに・・・。」
『うっ・・・・ごめんなさい・・・・。』
「まぁ、今回は許すけど・・・。」
『えっ』
「ほら、行くよ」
ぐいっと手を引く佳主馬にあたふたしながらも、
彼の不器用な優しさに潤んでいた瞳を細めるこの少女・・・葉月は、彼に握られた手を
ゆっくりと握り返した。
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