咎狗の血

□平行線の距離
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薄い、唇。

冷たく冷えきっていて、乱暴で荒々しい其れはまるでシキその物。

そんなイメージを脳内に植え付けた口付け。

初めから舌で口腔を掻き回されたキスは苦しくて仕方なかった。

どれだけ顔を背けて諍おうとしてもきつく顎を捕われて叶わない。
どれだけ舌を追い出そうとしても逆に搦め取られてしまう。
柔らかく唇の感触を味わうなんてもっての他。
舌同士が同化する位強く擦り合わせて吸い上げられて唾液を注がれた。

口内に広がるシキの味…味覚まで支配されるような、荒々しい接吻け。

気付けばもう、何度したか分からないくらい交わしていた。

「…ッ…んっ…」

いつからだろう…

いつから…


俺は好んで口付けを受けるようになった…?


気が付けば呼吸のタイミングを合わせて舌を搦めている。

首に腕を回して、自分がシキを離さない。

長い間唇を合わせて息苦しくても、離れたら逆に息が出来ないみたいに
必死に顔を引き寄せて舌で感じる感触に全神経を研ぎ澄ましていた。

嫌悪感しか感じなかった接吻けが、今はすごく気持ち良い…。

薄く目を開けて近距離の瞳を覗く。
目を閉じていても凛々しさを失わないシキの顔を見て思う。

先に変わったのは俺じゃない。

シキの、クチビルの温度が変わったから
温かく、柔らかく包み込むから
ジンと、鈍く胸に響く物を感じるから

だから甘く受け止めるしかない。

どうせなら、荒いまま変わらなければ良かったのに。

シキらしくない、切羽詰まったキスをするな…

そんなのはまるで

まるで―…














「好きだ、アキラ…」














捏造した科白が脳裏を過ぎる。

その言葉を聞く事は永遠に無いのだろうけれど。

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