テニスの王子様

□暖かい空気の流れる場所
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さわさわと擦れ合って音立つオレンジの葉
静かに時折力強く打つ波の音
目の前に建つ小さな一軒家に、その横で陣取るテニスコート
あれから何も変わらない
懐かしい匂いや雰囲気や流れる時の緩やかさは十何年経った今でも変わらなくて昔に戻ったように記憶が引き戻されるけど
1つだけ変わった事がある
それは、辺りを見渡せば必ずいた白い帽子を被った少年が居ない事

それだけで此処が別の場所になったように寂しく感じられる

唐突に会いたい衝動に駆られるけど、それは到底無理な話だ
だから脳裏を巡る少年の記憶だけを辿って瞳を閉じた
交差する葉の間から漏れて差し込む日差しが温かくて気持ち良い
そのまますぐに眠りに引き込まれて夢の中に堕ちる

見るのはその少年の夢

小さくて、素直で無邪気で可愛かった彼奴が、この間見た時は随分大きくなっていて
まだまだ身長は低かったけど、昔以来見ていなかった俺にとっては大した成長っぷりだ
時間が経過するのは早いんだな
あんだけ不器用で愛らしかった彼奴が全く正反対の性格になってやがる
想像を越える程上達したテニスに
可愛げを無くした生意気っぷりと堂々とした性格になっていて

今にも悪態をつきそうな…

不貞腐れた顔をして見ている

俺の顔を

どこかが痛いように眉根を歪めて

ぼやけて見えていたそれがゆっくりと鮮明に目の前に映って

同時に意識もはっきりとしてくるから小さく呟いた

「…チビスケ…?」

つい今まで見ていた夢と同じ人物が目の前いて見下ろしている
まだ意識がぼんやりとして軽い頭痛が起こるから夢か現実か分からずにいれば
鈍い音と共に脚に激痛が走って完全に目が冷めた

これは現実だ

「…っいって〜、何すンだよ!!」
「何時まで寝ぼけてんの?さっさと起きなよ」
蹴られた脚を摩りながら恨みがましい顔を向けたら、相手の機嫌はかなり悪かった
「早くっていってるだろ」
怒られる意味も分からないまま、取り敢えず腰の横に手をついて頭をあげた
そのまま立ち上がって改めて見てみると確かに目の前にチビスケがいる
居る筈のないチビスケが
そしてかなり憤慨している
その相手が詰め寄って胸倉を掴んでくるから驚くけど
身長差が大きいから大した凄みにもなっていなくて、
チビスケの心理を探る為にただ見つめた

絡めた視線の先の瞳が僅かに揺れる

「また勝手に消えて…どれだけ心配したと思ってんの!?」
「は?…ああ、そういう事か…心配してくれてたのか?」
「当たり前」
云ってる事は可愛いのに、態度や口調は全く可愛くねーんだな
「でも、こないだ船で会う時までは俺の存在ごと忘れてただろ?」
「初めはずっと心配してたよ。心配も薄れる程姿をくらましたリョーガが悪い」
「そりゃー悪かったな」
苦笑混じりに言うと、今まで強く睨みつけたた表情が少し緩んで、
胸倉から手が離れて溜息を漏らす
「…まあ其れは良いケド。やっぱり此処にいたんだ?
もしかしたらって思って来てみて正解だったよ」
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