テニスの王子様

□オレンジ
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「ちょっとリョーガ…オレンジ臭いよ」

唐突にそんな事を言われるものだら、今まで気にも留めなかったその香りが気になりだして、腕を顔の前にかざしてクンクンと鼻を利かせた。
それでも自分にとっては全くの無臭だから訳も分からず顔を顰める。
「そうかァ?」
「そーだよ。そういうのは自分では気付かないもんなんじゃない?」
そう言われてもう1度鼻から息を吸ってみるが、相変わらずの無臭。
自分では分からない匂いが多少気にはなるが、悪臭を指摘されている訳ではないからどうでも良かった。
「まぁ嫌な匂いって訳じゃねーし別に良いじゃねぇか」
今も手に持っているオレンジを軽く空へ放って。少し高い場所でキャッチすれば丁度そこが顔の高さだったから、辺りにオレンジの香りが漂って大好きなその香りに満足げに目を閉じた。
オレンジの香りは好きだ。
「別に嫌な匂いって訳じゃないけど…柑橘系の匂いはきついから結構気になるんだって。最近ますます匂いがきつくなってる気がするし…」

『正直言ってクサイ』

その言葉がやけに深く胸に突き刺さる。
まるで思春期の娘がお父さんを毛嫌う時に言う言葉の様に聞こえたからダメージは思ったより大きかった。
腹を見せてじゃれるカルピンの毛を指先で摘んでを弄りながら、少しオレンジを控えた方が良いのかなとガラにもなく気弱い思考を巡らすのだった。


どうせやるなら徹底的に。そんなに言うなら暫くオレンジを控えてやろーじゃねぇか!
勢いでそう決めてから3日め。
まだ3日しか経っていないのに、1日の殆んどをオレンジと共に過ごしていたリョーガにとってはかなりの苦痛をもたらす長い時間だった。
途中何度も口の中が恋しくなり、何時もなら持っているオレンジですぐに口腔を潤す事が出来るのに、持つ事さえ止めていたからそれも到底無理で。
欲しいものが手に入らないもどかしさに何事にもやる気が出せず、授業中はもちろん居眠り。
今はもう午前の授業が終わったあとの昼休みだけど、躯を動かす気力もないからそのまま机に顎を載せてうなだれていた。
 
オレンジが食べたくて仕方が無い。
でも1度決めた事を簡単に破棄するのは性に合わないから、呆気なくオレンジを手にするのも嫌だった。
欲しいけど欲しくない。
その矛盾する思考に悶々として頭が痛んだ。
自分がこんなにもオレンジ中毒だったなんて知ったのは今日が初めてだ。
肝心な授業は聞いてない癖に、こんな事にばかり頭を使って疲れるから幾ら寝ても寝たりない。
オレンジを欲っしてウズウズする身体はもう限界が近くて、もうオレンジ断ちなんて止めちまおうか…と眠気で薄れる思考の中に諦めの決心が過ぎっていた。
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