Book
□いつもと違う
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ふざけすぎにご注意 の続きもの(?)
前の読まずともこれだけでも読めます。
夏休みも明けて、学校が始まってしばらくたった。高校が別々だし距離もあり、寮生活の凛にはなかなか会えないことも多い。それは今となってはもう慣れたことだ。
会えなくても電話やメールで連絡を取ることが出来るから寂しくないかと言われたらそうでもない。やっぱり会いたいなと思う。そう思ったら即行動に移るのがいつものことで。
なんの連絡もなしに寮まで直接迎えに行き、凛をいつも驚かせている。
「りーんちゃんっ。」
「おま、いつも連絡しろって言ってるだろう?ったくしょうがねーな。」
「嬉しいくせにぃ。」
「部活行ってたらどーすんだよ、今日はタイミング良かったけど。」
その時はその時だよ、なんて言いながら腕を絡ませて外に出た。
「今日はどうしよっか…。」
「いつも名無しさんの家だから一緒でいいだろ。」
「ヤりたいだけじゃん。」
「ばっか、いつもじゃねーよ!というより自分から誘ってくるくせに!」
「ばれた!でも凛ちゃんも結局じゃん!」
「名無しさんが悪い。」
「凛ちゃんも悪い。」
もういいと言われて会話は終わってしまったと同時に電車に乗り込む。さすがにこんな会話は公共の場所で続けられない。軽くムスゥとした凛に話しかけた。
「凛ちゃん凛ちゃん。」
「なんだよ。」
小声で軽く指を指しながら微笑む。外を見ていた凛の顔がこちらを向く。指を指した先には、優先席で赤ちゃんとお母さんとお父さんがいた。お父さんと対面の形で膝の上に座らせて、小さな手はしっかりと洋服が掴まれている。赤ちゃんはお父さんとお母さんの顔を交互に見ては元気な笑い声と満面の笑みで満ち溢れていた。
「お父さんとお母さんも笑顔だね。幸せそう…。」
「羨ましいか?」
「もちろん!いいなあ、私も将来あんな風になれたらいいな。」
凛は黙りこんでしまった。何か喋るかと思っていた私は、おもわず凛の顔を見てみた。その顔はとても真剣そのもので、胸がキュンと高鳴った。もしかして、と思ったらにやけてしまう。凛の顔を覗きこむように、首を傾げる。
「いつかその時が来るまで楽しみだね。」
「……ああ。」
今はまだその時ではない、高校だしまだまだこれからいろんなことがたくさん。言葉はなくても分かること。
「まあでもいつ別れるかとか人生分かんないもんね。」
「そーいうこと言うんだ?」
「えっ。じょ、冗談だよ?」
「冗談でも言って良いことと悪いことぐらいわかんだろ。」
軽く言った言葉を言ってから後悔する。そんなつもりはなかったけど、凛は傷付いてしまったかもな…反省だなあ、と考えながら落ち込んでいたら手をぎゅっと握られる。握られたのを黙視してから凛に向き直る。
「ま、別れたいなんて言わせないけどな。ぜってー離さない。」
かぁと体温が上昇するのが自分でわかった。滅多にそんなことを言わない凛がさらっと言った言葉に涙が出そうになった。
「り、凛……。」
「なんて顔してるんだよ名無しさん。」
「だってぇ……ここ電車…ぅぅ。」
「せめて降りてから泣けよ。」
そう言うとちょうど降りる駅だった。涙目で今にも泣き出しそうな私の手を握ったまま、泣くなよと困った笑い声混じりで言う。改札を抜け私の家へと向かい歩き出す。
家に着くまで手はまだ握られたまま。
普段は私が腕を絡ませて歩いているのに、今日は違くて凛がリードしてくれている。
そろそろ私も落ち着いてきて家に着いたら、お母さんが珍しく帰ってきていた。
「ただいまー、お母さんおかえり!珍しいね。」
「おかえり。仕事が早く上がれたのよ。あら凛くん!久しぶりね、元気してた?名無しさんが迷惑かけてない?大丈夫?部活は?忙しいでしょ?」
相変わらずのマシンガントークのお母さんにいつも臨機応変に凛は、丁寧に返事をする。
凛のことがお気に入りのお母さんに取られるのは嫌だから、話は途中だが腕を引っ張り部屋へと向かう。
「凛ちゃん行くよ!もう。」
「凛くんと久しぶりだっていうのに、名無しさんったら。ゆっくりしてらっしゃい。」
「はい、ありがとうございます。」
好みのタイプが一緒だからこそ侮れない。親子ですから。
「親にも嫉妬するのか名無しさんは。」
「お母さんが凛ちゃん取るから嫌。」
「へえ。可愛いやつ。」
ニヤケ面の凛ちゃんが何かを企んでいるかのような顔をした。
「ぎゃ!凛ちゃん、頭ぽんぽんした…。」
「好きだろ?」
「う、乳首摘まむぞ…。」
「はあ?意味わかんない。前みたいになりたくないんだったらやめとけ。」
「!やめる、もうベッドから一日出られなくなるのは御免!!」
前にふざけすぎて足腰立たなくなるまでめちゃくちゃにされた。壊れるんじゃないかと本気で思ったのはあれが初めてだった。若いオスは本当に元気なんだなと再認識させられたものだ。
「って言っても、よがりまくってたクセに。」
「凛ちゃんだって…。何回すれば気が済むのよ!」
「元はお前が悪いんだろばーか。」
そう言って勢いよく抱き締められた。私もぎゅっと抱き締め返す。凛ちゃんの匂いと体温と、全てが好きすぎて胸がいっぱいになる。首筋に顔を埋め、唇が凛ちゃんの肌に触れる。
「凛ちゃん、子供は二人欲しいな。」
「っなんだよ急に。」
「んー…、人生設計の報告?」
「……。」
「男の子と女の子一人ずつで、凛ちゃんそっくりの女の子だったら可愛いなあって。」
「そんなの可愛くねーよ。お前に似て可愛いなら分かる。」
こんなにたくさん素直に可愛いって言ってくれたことに、顔がどんどん赤くなっていくのが自分でもわかる。凛ちゃんには顔を見られてないからバレないはず。なのにふふっと笑ってしまって自爆。
「んだよ、素直で悪いかよ。」
「ううん、嬉しいよ。」
「やべ。」
「……あ。」
凛ちゃんのそこも素直になられたようで。
だがお母さんもいるので、ここは我慢我慢……かと思いきや、私の手を掴んでそこをスラックス越しに触らせた。
「いやいやいや!凛ちゃん?!」
「名無しさん。」
「さすがにまずい、よ……?」
「冗談だ。」
「!!!……私がその気になったじゃん!どうしてくれる!!」
こういう冗談は私には通じない。女の私だって、性欲はあるしどうしようもない日だってある。ましてや電話で声はいつも聴いていたが、凛ちゃんと会うのは久しぶりだからなおさらで。
「自分でしろよ。」
「鬼だな!凛ちゃん鬼!」
ニヤニヤと笑っている凛ちゃんをよそに、自分が恥ずかしくなってきた。トイレ行ってくると一言告げて、凛ちゃんから逃げるように部屋を出た。
用を足してから、リビングに行くとお母さんが夕飯の用意をしていた。
「ちょうどよかった!ねえ名無しさん、凛くんに夕飯食べていくように言っといてね。」
「え、あー…うん。」
実はこの三人で夕飯だなんて初めてのことで、まさかの言葉に嬉しくてあんな言い方をしてしまった。
「将来の息子に家の味に慣れて貰おうかなーってね!」
「お母さん私達まだ高校生だから!」
お互いに笑顔でそのまま私は凛のいる部屋へと小走りで向かった。嬉しすぎてスキップなんかしたのは自分だけの秘密。
「りーん!」
「遅かったな……まさか、」
「違うよ!お母さんがね、夕飯食べていきなって!初めての三人でご飯だね。」
「いいのか?」
「うんっ。なんだか本当の家族になった気分だね。」
言い終わると腕を引かれてそのまま崩れるように前に倒れるが、凛が抱き止めてそのままの体勢が暫く続いた。凛……?苦しいよ、と声をかければ肩を押されて目が合う。
「名無しさん…。」
「…ん?」
ちゅっと唇が重なる。離れたと思いきや、おでこに一つ。離れれば再び見つめあう。
言葉にしないけど、凛から好きが伝わってくる。こんなにも幸せで溶けてしまいそう。
「お母さんの所に行こっか。そろそろ出来ると思うし、お手伝いしなきゃね。」
「ああ。」
凛がいるおかげで、いつもとは違う料理の豪華さに驚いた。あとはお母さんが相変わらずのマシンガントークで、凛がそろそろ困ってたのが面白かったり。凛くんお母さんって呼んでいいのよ?とか言っていた。
夕飯を済ませ休憩をしたら、凛ちゃんは帰らないといけない。分かっていても反動で寂しさは増すばかり。
「んな顔すんなよ、いつでも会えるだろう。」
「うんー……、寝る前に電話していい?」
「お前ってやつは。」
少し力強いも頭をガシガシと撫でてくれる。
「ぃた。」
「嬉しいだろ。」
「んもう、仕返し!」
身長差でハンデがあるが、精一杯腕を伸ばして凛ちゃんの頭をおもいっきりわしゃわしゃとしてみせた。ああ゛髪が乱れるだろ!と言いながらも笑っている。
「おりゃおりゃおりゃ!」
「長い!もういいだろ!」
わしゃわしゃとするのを止めずにいると、逆に私の後頭部に手を回して引き寄せた。このあとすることを一瞬で理解した私は手を止めた。そのまま顔が近付いてきて目を閉じる。
しかし一向に何も起こらない。あれ?と思い、目を開けてみるとフッと鼻をならした凛ちゃんとばっちり目が合う。
「凛ちゃ……!!!」
名前を呼び終わる前に私の唇は奪われた。
じゃあな、おやすみ。と片手をひらひらとさせて歩き出した。
私の彼かっこよすぎるでしょ……
電話にて
「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん大好きかっこいい好き好き好きー!」
「…………。」
「凛ちゃん?凛ちゃん?!返事してー!」
今更いろいろと恥ずかしくなった凛でした。