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□たった一人の君だけに
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いつも通りに登校して、いつも通りに授業も受けて、いつも通りに部活行って。
部活が終わり、いつも夏は夕日がとても綺麗でつい空を見上げ見とれてしまう。

「部活終わりだよ?早く支度しよう?」

頷くだけ。
いつも素っ気ない感じなのは、ほんの少しだけ、ちょっとだけハルちゃんに似てるかもしれない。皆からまこちゃんと呼ばれている彼は、分かってくれる。
帰り道を進むに連れ暗くなり、ハルと真琴と他愛もない話をしつつ、やがて分かれ道になってハルとはまた明日。
真琴と二人きりになって、寄り道しようか?と誘われるがまま手を引かれた。



海岸沿いに来て波の音だけがするこの場所に立ちつくした。
ここは以前に告白された場所でもあった。
以来、何かがある度に来ていた。水泳のこと、将来のこと。たぶん私のためにここへ来てくれたのだ。だからこそ聞かなくちゃ。手に力が入り覚悟を決める。


「いつもニコニコして疲れないの?」
「意識してるわけじゃないから…んーどうだろう。」

どっち付かずな返答なのもいつものことで。

「でもその営業スマイルは好かないな。変な虫寄るし付くし、正直困る。」
「変な虫って………あ、今日シャーペン借りに来た子、とか?」
「…も含めて。笑うなとは言わないけど、嫌なの。」

珍しく自分の感情を言葉にしている私を見て、真琴が驚いてるのを見てとれる。
これでも見ないふりしてきた方で、最初は分かってたから我慢していた。時に自分の体を割り込んで阻止したこともあったかも。でもここ最近は、もう酷い。周りは私が彼女だと認識しつつもまこちゃんをアイドルかのようにキャッキャッと騒ぎ立てる。正直しんどい。

「ごめんな名無しさん、無理させちゃったろ?」
「いいの、真琴が悪いんじゃないから。私のわがままよ。」

そっと抱き寄せられると、たちまち恥ずかしくなった。いくら人通りはなくても、いつ人がこの道を通るかとそわそわした。真琴と名前を言うのとかぶる様に真琴が話し出した。

「名無しさんといる時はいつも本当に心の底から笑ってるよ。部活のメンバーもそうだけど。でもね、名無しさんは感情とか表情が表にあまり出ないタイプだから、クラスの子には分かってもらえないことがあったと思う。」

いまだに抱き締められたまま、うんうんと相槌をしつつ話は続けられている。もう恥ずかしさは無くなって、気付いたら抱き締め返していた。

「だから俺なりに、名無しさんとクラスの子の関係が悪くならないようにって。それが名無しさんを傷付ける形になっちゃって悔しいなぁ…。」

顔を見上げれば切ない表情をした真琴の顔。逆に私が傷付けてしまった。

「ごめんなさい。私が悪いの。真琴は頑張ってくれてたんだよね。」
「いいんだ、名無しさんのためならなんだってしてあげたいよ。好きだから。」
「…私も。……私も真琴が好きだから。」

涙が目に溜まってるのが自分でも分かる。
どうしようもなくて、自己嫌悪に陥ってしまった。

「笑って。」

俯いていた顔を、再び上げると唇と唇が重なった。

「笑った方がもっと可愛いから。俺だけのために本当の笑顔を見せて?」

ふふ、と思わず笑ってしまった。とびきりのとまでは言えないが、真琴にはそれが嬉しくてニコニコしている。

「他の人には見せないでね?」
「真琴それは人のこと言えないよ。」
「一番の笑顔は名無しさんにしか見せてないよ。急に他の人への態度を変えるのは難しいから、少しずつ頑張ってみるよ。」

そしたら思い付いたような顔つきで。

「あ、そうだ!学校でもっと名無しさんとイチャイチャするのはどう?」

いたずらっ子のように話す真琴。

「……それは嫌。」
「どうして?恥ずかしい、とか?」

首を縦に振ると、冗談だよとまたキスをしてくる。

「イチャイチャじゃなくて、こう…その……。」
「今まで以上にたくさんお喋りするのも、十分イチャイチャだよ。」

真琴は私の思っていることを読み取ってくれる。唇がまた何度か重なり合い、そして明日の学校を考えると、さらに胸の高鳴りを感じる。











次の日、お昼休みになり屋上へ行く準備をしていたら

「真琴くん真琴くん!この間の授業のノート見せてもらえる?」

やっぱり近付いてきた昨日の女。

「ごめん、他の子を当たってもらえるかな?俺その時の忘れてきちゃったし。あ、名無しさんの方が字が上手いよ!」
「っ真琴…」
「ごめん名無しさん!つい…。」

思わず真琴を呼んでしまったが察してくれた。

「じゃまた明日見せてよ!」
「もっと名無しさんともっと話したいし一緒にいたいし大切にしたいから…その、」
「他を当たって。」
「わ、わかったよ。他を行けばいいんでしょ!」

いつもはこういった場面は黙りこんでいたが、初めて言い返した。強めに言えたかな、心配した。

「……名無しさんも言うようになったね。」
「真琴取られちゃう…。」

ニコニコよりニヤニヤした真琴が嬉しそうに言った。そしてとどめの一言。

「取られないよ、名無しさんだけだよ。」





「バカップル」

「ハル……!」
「これからもっとイチャイチャしないとね!よろしくねハル!」
「や、やめよ…恥ずかしぬ……!」



どう終わらせるか悩んだ挙げ句に、何故かギャグ風味なのか……!書いてる最中に方向変換することがよくありすぎて困ります。それが悩みです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。


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