木吉鉄平と私

□一方的でいいですか
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朝五時半。きっちりと目を覚ましてトイレ行って顔を洗いに行ってお弁当作りの開始。

気合いを入れるかのように、髪の毛を一つに束ねてポニーテールを簡単に結い上げる。
定番の卵焼きやウインナーは勿論、他には細々と全て手料理。冷凍食品などは一切使わない。それだけ気合いが入っているのだから。男の人だから、木吉さんあんなに大きいからたくさん食べるだろうと思ってレパートリーも増やした。

作り終わって自分自身も全てが準備ばっちりの頃には、約束の時間の少し前になった。気持ち早いと思ったが、早く会って渡したいという気持ちが私を小走りにさせた。

インターホンを押したらすぐに出てきた。前に会った時と同じスーツ姿の木吉さん。

「お、おはようございます。お弁当作ってきました!どうぞ!」
「おはよう。本当に作ってくれたのか、朝から悪いな。ありがとう」
「いえ、料理は好きなんで。でも足らなかったらすみません…」
「大丈夫だよ。美味しくいただく」
「……お仕事頑張ってくださいね、じゃ」

半ば逃げるように玄関前からいなくなり、自分の家へと足を進めた。
自分のベッドにダイブして枕をぎゅっーーーと強く抱き締める。ドキドキしたし、緊張した。不味くないだろうか、見栄え大丈夫だったかと今更ぐるぐると考えてしまっていた。
だがいつのまにか眠りについてしまった。



起きたらいつもの起きる時間だった。
いつも通り支度を済ませて家を出る。大学までの通学中、昨日の出来事を考えてた。
彼女いないのに付き合えないけど、お弁当は受け取ってくれるし断りもしない。
迷惑がってる様子も伺えない。
実際まだ二回しか会ったことがないんだ。そりゃすぐに付き合えるわけもないか……。
でも冷たく対応されたりしてもいいはずじゃ……。


とりあえずお弁当は毎日作ろうかな、なんて結論に至って大学に着いたのだ。




いつも通り大学が終わればバイト先へと電車で向かい、いつも通りの時間に終わる。
今日も木吉さんと会うことはないのだろうと、電車に乗り込んで最寄り駅で降りる。
改札までカードを取りだしながら歩く。ふと前を見れば、見覚えのある後ろ姿の男性。

「木吉さんっ」
「また偶然だな。相変わらずバイトしてるんだな、お疲れ」
「木吉さんこそお疲れ様でした」
「あ、弁当美味かったぞ!あれ全部作ったのか?」

その問いに大きく一度だけ頷けば、すごいな!本当に美味しかった。料理上手なんだな?いい奥さんになれるぞ、とべた褒めしてくれるから照れまくり俯いてしまった。

「弁当箱洗ってから返すから明日でいいか?」
「いいんです!そのままで構いません。明日もお弁当作りますね。」
「そんな立て続けに悪い。お金もかかるし、気持ちだけで十分だぞ?」
「私が好きでやっていることなんで、いいんですよ。お願いします」

お願いしたら困った笑い顔をあからさまにされた。私は木吉さんを困らせることが得意なようだ。



互いに玄関前まで来て、顔を見合わせる。
お弁当を抱えるように持っている私に、本当にいいのか?と言われ笑って返した。

「木吉さん…おやすみなさい、また明日」



一足先に鍵を閉めて靴を脱ぐ。ソファーに向かって乱暴にカバンを投げて、流し台で目線の先にあるものに対して息を一つに吐いた。
いざお弁当を開けてみたら綺麗に食べ尽くしてくれたことを再認識し、ほっとして思わず笑みがこぼれる。
安心をしたかのように、お弁当箱を洗い流した。

そして普段している眠るまでの一連の行動。


明日も早起きしなくちゃ。

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