木吉鉄平と私

□私じゃ駄目ですか
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告白をして一週間が経つ。連絡は私が一方的にしているが、どんなに時間が空いてもしっかりと丁寧に返事は返ってくるし、いい人。
むしろこんな内容無視してもいいのになってレベルでも一言返してくれる律儀さだ。
あれ以来会っていないのにも関わらず、どんどん彼のことが好きになっていく。
やり取りを始めてから知ったこと、彼の名前は木吉鉄平。年齢は三十四歳、バスケが得意。
肝心の彼女ありなしは、いまだに謎。だがいきなり告白した奴にここまで丁寧に返事をしてくれる人だ、きっと彼女はいない…はず。いないでほしい。そうじゃないと変。

相変わらずバイトもしていて、帰りにまた会えるんじゃないかって期待していたけど会うことはなかった。
そんな今日は久しぶりにバイトがない日。だからこそバイト先がある最寄り駅に降り立つ。彼、木吉さんに会いたい。まずは連絡をしてみる。


こんにちは。今日はお仕事遅いんですか?良かったらお会いしませんか。今日はバイトがお休みなんです。


始めてのお誘い。ドキドキしながらこの文章を送った。今はお昼、そのせいか早めに返信が来た。それだけで胸が高鳴る。


今日はいつも通りだ。バイトが休みだなんて珍しいな、身体休めないと駄目だぞ。


体調を心配してくれたことが素直に嬉しかった。だけど会ってくれるかどうかは触れられてなかった。嬉しさが一瞬のうちで寂しさに変わる。


ありがとうございます!身体は強い方なので。夜あの駅にいますね。待ってます。


迷惑かもしれない、けど会いたいんだ。彼の言葉なんて無視して、相変わらずの一方的さで返事を返した。
時計はちょうど十三時を指した。私も彼もお昼休みが終わり。連絡は途絶えた。





今は十八時。私は予定通りあの駅前に立っている。連絡はあの時から返ってきてない。仕方ないと思いながら文章を打ち込んでいく。


着きました。
駅前にいますので、待ってます。


普段待っているという行為は退屈と思ってしまうが、そんなものは存在しない。ドキドキとして脈拍は早くなり、呼吸は深くなる。
会って何を話そう、どうしようと頭の中をぐるぐるして一人でシュミレーションを行うことで忙しかった。





しばらくして、一通りシュミレーションを行い尽くした頃。連絡はいまだにない。
時間は十九時。とうとう本性を現したのか、それとも残業だったか。出来ることならば残業で遅くなっているんだと思いたい。
駅前はたくさんの人が通るため、人酔いまでとはいかないが疲れた。
このままなのかなあ、そう思ってたら彼はいた。

「あれ、君は?!」

驚いた様子だった。木吉さんは、私のことを初めて会った時以来名前では読んでくれていない。君止まり。

「すまん、残業して忙しくて連絡を見れてなかったんだ。どれくらいここにいた?」
「一時間ちょっとぐらいですかね」
「疲れただろう、ちょっと店に入るか」

近くにあったファミレスに入り、席についてドリンクを注文した。すると携帯を取りだししばらく見つめていた。

「帰り際になって急に仕事が入ってな」
「そうだったんですね、お疲れ様でした」
「せっかくバイトが休みだったのに…申し訳ない」
「いいんです!木吉さんに会いたかっただけなんで」
「はは、おっさんに?」

本気だと思われてないのか、と思うとムッとなる。十四歳も離れているが、もう大人なんだから関係ないと私は思う。

「木吉さん。私、本当に好きなんです」
「おっさんだぞ?君は可愛いんだからもっと若い男に」
「関係ないです!もう私も大人ですし、もしかして彼女か奥さんがいるんですか」
「いや、いない。こんな歳だけど女いないって引くよな!」

ははは、と笑って飲み物を飲んで誤魔化された。木吉さんは、何をそんなに引っ掛かっているのだろう?そう思い、率直に聞いてみた。

「君は大学生だろ?その年齢ならもっとたくさん他の楽しいことあるだろ?」
「木吉さんといる時が一番楽しいですよ」
「何かの間違いじゃ…、ほら!男女楽しく飲み会とかさ」
「そんなに友達いません」

顎に手をやり、困ったなといった顔で黙ってしまった。

「なんでですか?…何が駄目なんですか」
「……ごめん」


沈黙となったその時に、頼んだものが運ばれてきた。黙々と料理を食べていたら、これ美味しいな、と笑顔でこちらを見ながら話しかけてきた。気まずいのに目を会わせて話しかけてくる彼に、違和感を覚える。どうして気を遣うの?振ったくせにそんな素振りみせるなんて、なんて男だと思いながら無言で頬張った。


「大丈夫です、お金出します」
「いいんだ、おじさんに奢られときなさい」

颯爽と伝票を持ってレジへ向かいお会計を済ませた。また沈黙は続いて、外に出て駅前に来た。

「今日はごめん」
「謝らないでください。私が悪いんです」

帰る流れだ。でも今、もう一度言わないとこのまま会えなくなるんじゃないかって。連絡取りづらくなる、そんなのは嫌。ワガママと思われてもいい、そう思った。

「木吉さんが好きです、大好きです」
「……ありがとうな。でも」
「付き合えなくていいです、今は。……夜、また連絡していいですか?」
「…いいぞ。さ、気を付けて帰るんだぞ?夜道は危険だからな」

連絡をしてもいいと許可を貰えただけで舞い上がった自分がいた。頬が緩むのが感じた。
改札を通り抜けるとお別れ。
そう思ったらどうやら、同じ電車のようだ。

「偶然ですね!最寄り駅はどこなんですか?」
「○○駅。こっから一時間弱くらい」
「えっ、同じ……」
「っ…偶然だな!ずけえ」

沈んでた気持ちがまた上がった。我ながら上がったり下がったり忙しいヤツだ。同じだったのに、いままで会えてなかっただなんて惜しく思えてくる。でも今は、気まずい状況でもある。嬉しいけど今は別になりたいかも、けど一緒にいたいかも、でも……の繰り返しでぐるぐるしていた。

「……ト、トイレ行ってくるんで、先帰ってても大丈夫ですよ?」
「ん?トイレなら行ってこい。女の子が一人で帰るのは危ないって言っただろう?せっかくなんだから一緒に帰ろうぜ」

なんて男だ、本当にこれは本気で言っているようだ。もしかしてこの人は天然……。
さっきまでの私の気持ちをちゃんと聞いていたのか?と疑いたくもなる。
トイレから出れば、彼は待っていた。お待たせしましたと一言言えば、おう!行くぞと明るく返してきた。並んで歩くのもどうかと思ってなんとなく斜め後ろ気味について歩く。身長が高い木吉さんの顔をこっそり見上げると、いつものあの格好いいお顔。盗み見といて勝手に一人で照れる。

電車に乗り込み、席が二つちょうど空いていたので座る。ここまで会話はない。だけど気まずさは何故か感じなかった。
待っていた疲れもあったのか、電車の揺れ心地がさらに眠気を誘った。私は知らない間に眠ってしまっていた。






ハッとして起きれば、最寄り駅の手前の駅だった。自分が寝てしまっていたことに気付く。

「起きたか?もうすぐ着くぞ」
「あれ寝ちゃった…すみません!重かったですよね…」

おもいっきり木吉さんの方に寄りかかり頭は肩に置かれていたと思われる。

「全然!やはり疲れたよな」
「いえ、今朝はいつもより早かったんでそのせいです」
「そっか。じゃ今日は早く寝るんだぞ?」

その言葉を素直に受け入れて、今夜は早く寝ようかなと思った。こうして最寄り駅に到着した。二人で改札まで通り抜け、出口まで向かって今度こそ本当にお別れ。十分理解してて分かってても寂しくなる。

「じゃぁ、ここで……」
「家はどこ?」
「えっと大丈夫ですよ!ここから見えるあのマンションなんで!」
「あのマンションか…?!俺の家もあのマンション…」
「へ?!偶然ですねーすごい!驚きです」

内心もっと驚いていた。同時に喜びの感情も沸き出てくる。歩きながら互いにどこに住んでいるのか聞いてみれば、405と406でまさかのお隣さん。ここまで一緒とくれば運命さえ感じてしまう。

「気づかなかったなー、ここまでくると奇跡だな!」
「はい!まさかお隣さんが木吉さんだなんて…会ったことないですし」

実は三月に引っ越して来たばかりで、お隣さんに挨拶をしに行ったことがあった。だがなかなか時間が合わなくて顔を見ることもなく、ドアにお菓子と一緒にメモ用紙に人混み添えて引っ提げたことを思い出した。

「そういえばあったなあ。あれ美味しかったぞ」
「良かったです。……ほんと、すごい偶然でびっくりしちゃいます」
「こんなことってあるんだな〜」

兎に角驚くことしか出来ない。木吉さんがお隣さんと知った今、もう攻めるしかないなだなんて全く懲りていない自分がいた。
マンションのエレベーターに乗り、通路を歩き互いの家の前まで来た。

「今日は奢っていただいてありがとうございました。あと、電車も…」
「あれくらい普通だろ?こっちこそ待たしちゃったし。じゃ、おやすみ」

木吉さんがドアの鍵を開けてドアを引いて入ろうとしたタイミングで、あの!と声を張って呼び止める。ん?と聞き返し体ごとこちらに向き直してくれた。

「…あ、えと、明日もお仕事ですか?」
「?、そうだよ」
「お弁当作ったら食べてくれますか?てか、作ります。いつもコンビニって言ってましたよね?」
「?……でも大変だろう?いいよ」
「明日の講義は午後からなんです!だから大丈夫です。なにか好き嫌いありますか?」
「ないけど…」
「七時にお家伺います。間に合いますよね?」

ちょっと気持ち悪がられなかっただろうか、ここまで覚えてるとは思っていなかったのか。でも好きな人のことになるとなんでも覚えてるし、知りたいもの。
木吉さんと会う前まで連絡を取り合っていた時に、勘ぐられないようにこっそり聞き出していた情報が、役にたつ時が来たのだ。
なんで知ってるんだ?と頭を掻きながら首を傾げる姿が可愛く思える。

「内緒です。木吉さん、おやすみなさい」

逃げるかのように先に家の中へ入っていき、バタンとドアを閉めて、ドアにぴたりと背中を預けて深く息を吐いた。
よし、明日張り切って作るために早寝早起きをしよう。心を入れ換えて靴を脱ぎ、お風呂に入る準備をした。


木吉さんを落とす作戦の開始である。

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