短編シリーズ

□七瀬遙の性癖
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ハルは水にしか興味がない。そんなハルが水以外に興味を持ったのが緊縛。
これは私しか知り得ないこと。

ただ縛り上げるだけでない、本格的に縛り上げるのだ。部活中に渚が変なことを吹き込んだのだろう。そのせいで私は実験台。最初は腕だけだったのに。

「ねえ」
「……」
「ねえハル」
「なに」
「これってさ、亀甲縛りだよね」
「そうだけど」
「………」
「…………よし」

どうやら上手く縛れたらしい。この締め付けられている感じはなんとも言えない。縄が食い込みながらも部分が主張されている。体をもぞもぞとどう動かしてもほどける訳もない。


「もういいでしょ?ほどいてよう」
「イヤまだだ。写真……写真、と」
「や、やめてよー!」

その言葉は届くこともなく、カメラを構えられて顔を背ける。ただ無言で撮られるだけ。

「あーもう恥ずかしいから…!」
「ブレるだろ、じっとしてろ」

限界が来て足だけは自由だったので、立ち上がり逃げる。だがそれは許されず、引き戻されると手には新たに縄を持っていた。どうやらまだ縛る気でいるらしい。

腕はほどかれて自由になったのもつかの間、抵抗も空しく力業であっという間に腕とふくらはぎをくっつけて一つに縛り始める。
腕は足の内側で縛られたから必然的に開脚をしなくてはならないポーズ。

「だめだってば!これ……!」
「すごくいい。いいぞ名無しさん」
「よくない!なんだか、その……えっちだよ…!」
「そんなこと言うなんて変態だな」
「ハルの馬鹿」

顔が熱くなるのがわかるとさらに意識をしてしまった自分がいて、余計どうにかなりそうな感じ。ここから逃げてしまいたい。
そんな私に対し、ふっとハルが笑った。

「かわいい」
「ハ、ハル……!」

ちゅ、と触れるだけのキスを落として離れるとそのまま部屋を出ていってしまった。

へ?まさかの放置プレイ……?

「ハルーー!?ハルちゃん?!」

いくら呼んでも返事もない。無音の中、動けない私はどんどん不安が押し寄せ恐怖に変わる。

「ハル…遙ってば!!ううっ」
「名無しさん」
「ハル!どこ行ってたの」

涙を浮かべ泣いている私が予想外だったのか面白いのか薄く困り顔。

「真琴の家」
「え?」
「トイレ行ったあとに連絡があって、おばさんがお菓子焼いてくれたから取りに行ってた」

その僅かに感じる長ささえ長く感じてしまったのだ。それにしてもなにも言わずに出ていくなんて。ハルだから仕方ないけど…。
安心して涙がもっと溢れた。ぐしゃぐしゃになった顔を晒して、

「どうした」
「ううう外してよ」

仕方ないと言った顔で鼻で深く息を吐いて、縄をどんどんほどいていく。
ぱっと自由になった瞬間、ハルに勢いよく抱きついた。

「!…っ名無しさん?」
「馬鹿遙、恥ずかしかった」
「……」
「寂しかった、…怖かった」
「…悪かった」

抱き締め返して頭を何度か撫でてくれる。
そして縄を締めた跡が付いてしまっていた腕を、何度も念入りに唇を落としていく。軽くリップ音をさせながら、徐々に首筋まで来てちくりと痛んだ。見えちゃうことなんてお構い無しの様子。

「せめて鎖骨にしてよ」
「じゃあ」

そういって鎖骨に吸い付いた。そうじゃないけど、もう付けてしまったのだから消えるまで待つしかない。

「たち悪い」
「好きなくせに」


ゆっくり優しくベッドに沈みこんだ。

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