過去拍手

□俺の恋
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俺には、ずっと好意を抱いている人がいる。


白石嵐斗(しらいしらんと)。


俺と同じクラスで、同じ男。
男から見てもすっげ格好いい。


男子校で同性愛者なんて珍しくもなく。
俺も必然的に同性を恋愛対象として見るようになった。


今、好意を抱いているのが白石嵐斗だ。


学校での印象は不良。
目が合うと教師、生徒関係なく喧嘩をすると言われている。
実際に見たことがないので分からないが。


ただ、彼が噂のような怖い人物でないということだけは知っている。


俺の顔はどちらかと言うと女寄りで。
昔から同性から恋愛対象に見られてきた。


よく女と間違われて告白されたり、ナンパされたりした。
男と分かると行ってしまう者もいれば、それでも構わないと言う者もいる。
そう言うときは決まって体を重ねた。
だけど、体は気持ちよくても、心が満たされたことはない。
必ず行為の最中に、彼の顔が脳裏をちらつく。


そう、あの白石嵐斗が。


彼を好きになったのはあることがきっかけだった。


ガタンガタンと揺れる電車の中、俺は身を強張らせて立ち尽くしていた。


高校に入ってから、俺は電車通学となった。

普段は通勤ラッシュを避けるため、一本早い電車で行くようにしていた。


しかし、今日に限って寝坊。


辺りは通勤ラッシュのサラリーマンで満員。


ぎゅうぎゅう詰めにされ、俺はあれよあれよというまに隅の方に追いやられた。


それが、まさか相手の陰謀だと知るよしもなく。


俺は目尻に涙を浮かべ、下半身を触る手に耐えていた。


最初はまさか、と思っていた。


明らかに男と分かる制服。
すでに股を触られているので、女と間違えているわけではない。


相手は、明らかに故意に触れてきている。


痴漢だ……。


身動きのとれない満員電車で、俺は逃げることも、抵抗することもできなくて。


「ん…っ……ぅ……」


怖い。


相手が分かっていて触られるのと、相手が分からず触られるのとでは全く意味合いが違う。


「!だ、だめ……」


痴漢の手がズボンのチャックを下ろしはじめて、さすがにその手を押さえた。


涙目になって、首を小さく振る。


やめてほしくて手を押さえるが、手はやめるどころか俺の手を払い、行為をエスカレートさせていく。


俺自身を触られ、びくびくと反応してしまう。


このままでは、電車の中でいってしまう。


それだけは嫌だ。


「良いんだろ?出せよ」


低い声が耳につく。


「っ!」


誰か……助けて……っ!



そう思ったときだった。


「やめろ」

「え?」

「な、なんだね……?」


聞き覚えのある声が頭上でした。


「あ……」


それは、白石嵐斗だった。


白石嵐斗は俺の頭をポンポンと叩くと、こちらも見ずに相手の腕を捻り上げた。


この狭い空間で凄い……。


何て呑気に思っていたら、相手が悲鳴を上げた。


「何だ?」

「おい、狭いのに……!」

「どうしたの?」


車内がざわつく。
満員のため、皆動きがとれず、何が起きたか分からないようだった。


「い、いきなりこの少年が私の腕を……っ!」


そこではじめて俺に触っていた奴の顔が分かる。


まだ若い男。30代くらいだろうか?


男は少し焦った様子で、白石を見ている。


「やだ……。高校生の喧嘩?」
「怖い…」
「次の駅で降りろ」


口々にそう言うのが聞こえ、俺はハッとした。


「この人!ち、痴漢です!!」


俺は思わずそう叫んでいた。


「なっ!?」


そう、俺がいったものだから、男はよけいに焦る。


「な、何を!私はそんなことしていない!!」


証拠はあるのかと騒がれて、俺は押し黙る。
背後から触られたので顔までは見ていない。


「こっちからは見えてたんだよ」

「そうだ。俺も見た。その子に触ってるお前を」


助け船を出したのは同じ制服を着た人。
誰だっただろうか。見たことあるような、ないような。


駅につくなり、男は白石の手で電車から放り出された。


俺もその駅で降りた。
痴漢騒ぎになって、騒ぎの中心である俺はそのまま乗り続ける勇気はなかった。


「大丈夫か?」


そう問われ、俺は小さく頷いた。


「あ、ありがとう……」

「何ともないようで良かった。それじゃあ、俺はこれで」


そういって、白石の友人らしき人は行ってしまった。


「あ、ありがとうございました」


その人はヒラヒラと手をふった。


「お前、本当に大丈夫か?」


「っ!……」


あ、やばい。泣きそう。


それを分かってか、白石は俺の頭を撫でる。


「ごめ……」


「ん」


優しい手。


単純だと思われるだろうけど。


俺はこのとき、白石に恋をした。






あれから一ヶ月。

何か進展したわけでもなく。

俺はただぼんやりと、白石を見つめるだけだった。


俺は、誰かを本気で好きになったことがなかった。


だから、この想いをどうして良いかわからなかった。


話しかける度胸も、告白する勇気もない俺。


だけも、この想いをもて余していた俺は、熱くなる体を沈めたくて、夜の街へと繰り出していた。


といっても、どこへ行くわけでもなく。
ただ俺は座っていた。


「君。綺麗だね」


来た。


近付いてきたのは20代くらいの男。


俺は男を見上げて、薄く笑った。


「お兄さん、ちゃんと見えてる?俺、男だよ?」


「え?あ、男?」


「それでも、良い?」


「!……もちろん」


必ず、一肌を求めてるときは、同じ臭いをさせた人が近付いてくる。


お互い分かるのだ。

同じだと。

相手も男をほっしていると。


差し出された手をとろうとして、俺は動きを止めた。


いや、止められたというのが正しいか。

 
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