過去拍手

□ライアン×メイヤ
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「おめでとうございます、メイヤ様。ご懐妊でございます」
ベッドに横たわりながら、メイヤは医師の言葉を聞いていた。
7日間の伽を終え、医師たちにより、精が定着したかを調べられた。その結果、無事に精は定着していた。
その知らせは、公務をしていたライアンのもとにも届いた。
定着したかどうかは心配していなかった。
精が定着したことは、伽の途中で分かっていた。
おめでとう、という言葉とは裏腹に、その表情は少し固いものだった。
目の見えていないメイヤには、そんな医師の表情は分からない。しかし、医師から放たれる雰囲気から、何かあるのではと考えた。
「あの……。先生?もしかして、赤ちゃんに、何かありましたか?」
おずおずと尋ねれば、少し医師の雰囲気が和らぐ。
「なぜ、そう思われるのですか?」
「何となく………。僕……、目が見えなくなってから、気配と言いますか、何となくその人の放つ雰囲気とかで、分かるんです」
「………そうですか」
「赤ちゃんは、大丈夫でしょうか?」
それだけが心配だった。
もし、無事に産めなかったら。
「胎児は無事です。何もご心配はありません。ただ、メイヤ様の中に宿った命は一つではなく、二つなのです」
「!つまり、双子………ですか?」
「はい」
平らなお腹を、感慨深げに擦る。
この薄い腹に二人も宿っているのか。
「サテラナ族で、双子を妊娠するのは稀だと伺っております」
確かに、サテラナ族が双子を身籠るのは極稀なことである。
そもそも、サテラナ族は一人の体に卵子を一つだけ宿している。そのため、産めるのは生涯にただ一人。
ただ、稀に双子を授かることも確かにある。
現にメイヤも双子を身ごもった。
「僕のいた里でも、双子を身ごもった人はいませんでした」
「不安かと思いますが、出来る限りのことはします。メイヤ様はどうか心穏やかに、出産をお迎えいただきますようお願いします」
「はい………」
そう言われても、メイヤの中に生まれた不安は、中々拭えない。
一番の心配は、目の見えないことだ。
一人でも不安だったのに、双子となると、更に不安が大きくなる。
無意識にお腹を触れば、小さな鼓動を微かだが感じる。
確実に育ちつつある二つの命に、メイヤは不安を募らせていった。




それからすぐに、メイヤは臥せりがちになった。
ベッドで過ごすことが多くなり、余計にメイヤの心を病ませた。
「メイヤ様。少しは食べないと、体がもちませんよ……?」
心配する世話係のチガヤに、メイヤは首を振った。
「今は良い。ごめんね……」
「メイヤ様……」
チガヤではどうすることもできなくて、後はライアンに任せるしかなかった。
公務で忙しくしていたライアンが、メイヤのもとに来れるようになったのはそれから数日がたった頃だった。
「メイヤ、入るぞ?」
ライアンが部屋に入れば、メイヤはモソモソと起き出した。
「ライアン様……?」
心なしか、メイヤの表情に笑顔が戻る。
「陛下、メイヤ様。僕はこれで。何かありましたらお呼びください」
ライアンが目配せをすると、チガヤは頭を下げ、部屋を出た。
「メイヤ。体はどうだ?あまり食事をとっていないようだが?」
「………」
俯くメイヤに、ライアンは小さく息を吐いた。
「何が不安だ?」
「!」
ライアンの問いに、メイヤの肩が微かに揺れた。そして、ボソッと何かを呟く。
「………赤ちゃん……」
「ん?」
「双子だったって、先生が………」
「あぁ。そういえばそんなことを聞いたな。それがどうしたんだ?」
「僕は、目が見えません」
「知ってる」
「一人でも不安なのに、双子なんて………育てる自信がありません……」
抱えていた思いを吐き出せば、ライアンはメイヤの頭を撫でた。
「そうだな。だけど、お前はひとつ大事なことを忘れている」
「え?」
「お前は一人じゃない。俺やチガヤ。城の者たちがいる。大臣たちは言わないが、子供が産まれるのを心待にしているんだ。きっとあいつらも、協力してくれる」
だから大丈夫だ、そういってライアンはメイヤの頬にキスをする。
「………そう、ですね……」
「無理しなくて良い。俺もできる限りお前の助けになれるようにする。お前が笑ってくれないと、辛い」
「ライアン様」
メイヤの瞳がうるうると潤んでいく。
そして、淡く微笑み、ライアンへと手を伸ばした。
「ライアン様……」
メイヤが目を閉じると、ライアンはその意図を理解し、顔を近づけた。
重なる唇。
ライアンはメイヤの背に、メイヤはライアンの背に手を回した。
背中に伝わる抱き締められる感覚に、メイヤはホッとする。
ライアンの優しい口づけは、見えない不安を吹き飛ばしてくれた。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です」
そういって、メイヤは淡く微笑んだ。その笑みに、ライアンも笑顔を浮かべる。
「うん。やっぱりメイヤは笑っている方がいいな」
「ライアン様……。ライアン様がいてくださるから、僕は笑うことが出来ます」
見えないことはやはり不安だが、ライアンがいてくれるなら、もう大丈夫だ。
「愛してるよ、メイヤ」
「僕もです」
一人じゃないことを実感したメイヤは、久しぶりにライアンとの夜を過ごした。








 

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