過去拍手

□ランス×ユエナ
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ユエナは小さく咳をしながら、ランスの書斎を片付けていた。
本来は城に仕える清掃係の役目だが、ユエナがそれくらいするといって断った。
二人の愛の結晶である息子のユラキは、現在お昼寝中だ。
ランスが散らかしたままの書類をきれいに片付け、机に並べておく。
どれがいるもので、どれが要らないものかが、ユエナには判断がつかない。
とりあえず、記憶をもとにあった場所に返しておくくらいしか出来ないが。
一通り片付けてから、ユエナは一息ついた。
「けほ、ごほ!」
ひどく咳き込み、ユエナは壁に手をついた。
最近、体の調子が悪い。
今まで、元気だけが取り柄だったのに。
どうも、ユラキを産んでから体が弱くなった気がする。
しんどくてその場に座り込めば、タイミングが良いのか悪いのか。
丁度ランスが帰ってきた。
「ユエナ!?どうしたんだ!!?」
うずくまっているユエナを見て、ランスが慌てて駆け寄る。
「あ?何が?」
しかし、ユエナは何事もなかったかのように首を捻る。
「何がって………しんどいのか?」
「はぁ?何言ってんだよ。ここにゴミがあったから拾ってただけだ」
そう言って拾ったゴミを見せる。
「……そうか。なら良いんだ」
うまく誤魔化せたようで、ユエナはホッとする。
現在ランスは、火の国との国交のために忙しい日々を送っている。
今が大事なときでもある。
火の国は、サテラナ族を初めて妃に迎えた国として、他国からも注目を浴びている国だ。
ここ風の国も、サテラナ族を妃に迎えた。同じサテラナ族を妃に迎えた国同士、友好を深めようと持ち掛けたのは風の国、つまりランスからだった。
あれだけ優柔不断で、自分では中々決められなかったのに。
ランスが自分で決めて始めたことを、ユエナは邪魔したくなかった。
近々、火の国から国王と妃が訪問する予定になっている。
それまでには風邪をなおさなくては。
「そうだ。来週、火の国から国王と妃が来られることになった」
「来週?分かった。衣装はどうする?」
「縫裁師を呼んでいるから、君のドレスを新調しよう!」
意気込むランスに、空回りをしなければいいけど、と思うユエナだった。
次の日、縫裁師が城を訪れた。
「ユエナ様はスタイルが宜しいので、サイズはそのままで。ドレスの生地だけ合わせますね」
「分かった」
様々な生地をユエナの体に合わせていく。
「ユエナ様はお美しいので、どの色も合いますね。ですが、やはり淡い緑が良くお似合いです」
「じゃあ、これで。あんまりフリルとかリボンはいらないからな!」
「分かっています。それではすぐに取りかかりますね」
言うが早いか、縫裁師は生地を片付け城を出た。
ユエナはふぅ、と息を吐きながら椅子に座った。
「疲れた……」
いつもり感じる疲労感。
何だか昨日より体調が悪くなっている気がする。
幸い、ランスは忙しくて気付いていない。
しばらくは大人しくしていよう。
それから数日後。
火の国の国王夫妻の訪問を明後日に控え、風の国ではバタバタとしていた。
ランスも、最終調整のため朝から大臣たちと会議をしていた。
ユエナはユラキと共に部屋にいた。
「ケホケホ!」
あれから体調は良くなってはいない。
ユエナは、ランスたちに悟られないよに隠してきた。
ユエナが自室で明後日の準備をしていたら、隣の部屋で寝ていたユラキが目を覚ましたようで、泣き声が聞こえてきた。
慌てて立ち上がれば、ぐらりと視界が揺らいだ。
「っ!?」
立っていられなくなり壁に手をつけば、そのままずるずると座り込む。
「ヤバイかも………」
あぁ、ユラキが泣いてる。早くいかないと。そう思うのに体が思うようにいかず、ユエナはそのまま倒れた。


ユエナ………!


あ、ランスの声がする。
何だよ、その情けない声は。お前は王なんだから、もっとしっかりしろ。
て言うか、煩い。
頭が痛いんだ。少しは静かにしろよ。


ユエナ……!!


だから、煩いって。



「ユエナっ!!」
「煩いっていってんだろ!!!」
「ぐはっ!!?」
そう叫びながらユエナの拳がランスの顎にヒットした。
そのままランスは床にノックダウンした。
「ユエナ様!良かった、目が覚めたのですね」
「え……?」
目の前にはユラキを抱いたクレセアが立っていた。
「あ……」
急に動いたためか、また目眩がしてふらりと体が傾ぐ。
「ユエナ様!」
「ユエナ!?」
「お二方、大丈夫ですので別室へ。あとは私が」
そう言って老齢の医師が入ってきた。
「クレセア殿。王子をお早く。風邪が移ります」
「あ!分かりました。陛下、行きますよ!」
「ユエナ〜〜〜っ!」
クレセアに引っ張られ、ランスたちは言われた通り隣の部屋にいった。
「ユエナ様。ずいぶんご無理をされたようですな。熱が高いです」
「………ランスの、邪魔をしたくなかったんだ……」
正直に話せば、医師は瞳をなごませた。
「そうですか。ですが、貴方様は陛下と王子の大切な方。もう少し、お体を大切になさってください」
「っ!……はい」
「お薬を出しておきます。三日は安静に。陛下には私から申しあげておきます」
「でも!明後日は………っ!!」
「ユエナ様。今無理をして、こじらせればどのみち明後日の訪問には間に合いません」
「………」
自分がランスの足を引っ張るなんて。
「ユエナ様。陛下は貴方様と公務を秤にかけるほど、愚かではありません」
「………分かってる」
「今はお休みください」
ユエナはこくりと頷いた。
医師は穏やかに微笑み、部屋を出た。その後に、入れ替わるようにランスが入ってきた。
「ランス………」
「ユエナ。なぜ体調が悪いことをいってくれなかったんだ……?」
「ごめん」
「せめてるわけじゃない。ただ、無理だけはしないでくれ。俺は鈍感だから、側にいたのに気付けなかった。だから、少しでもおかしかったら言ってくれ。ユエナに何かあったら、俺は生きていけない。ユラキにだって、まだまだ君が必要なんだ」
真剣な眼差しで
「うん。分かってる。ごめん、もうしないから……」
「そうしてくれ」
「明後日のこと……」
「大丈夫。向こうには事情を説明して日を改めるよ」
「ごめん……」
申し訳なくて、ユエナの瞳が涙でにじむ。
すると、ランスはギュッとユエナの手を握り締めた。
「気にするな。ここに来てずっと気を張ってたんだろ。休むいい機会だ。ゆっくり休め」
「ランス……ありがとう。………手、このまま握っててくれるか?少しの間。俺が寝るまで……」
「あぁ。ずっといるよ。だから、安心して眠れ」
「うん。大好きだよ、ランス………」
そのままユエナはゆっくりとまぶたを閉じた。
「俺もだ、ユエナ」
握られた手の温もりに、ユエナは安心する。
今はこのまま。ランスの温もり感じながら眠りにつこう。
たまには風邪をひくのもいいな、と思うユエナだった。





end
 

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