過去拍手

□アクライ×リラト
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アクライは、眉間にシワを寄せてある一点を見つめていた。
その顔は凶悪に満ちており、他人を寄せ付けない恐ろしさがあった。
それでも声をかけなくてはならない事情がある男は、おずおずと口を開いた。
「あの、陛下?お決まりになられましたでしょうか………?」
そう尋ねれば、アクライは眉をピクリと動かし、男をみやる。それはもう恐ろしい顔で。
「あ!?」
「ひぃぃ!も、申し訳ありません!!お許しを!!!」
怯える男に、アクライは首を捻った。
「は?何を謝ってるんだ?」
アクライは決して怒っているわけではない。
ただ、ほんの少し言葉遣いが荒っぽいだけだ。
「やはりこれにしよう」
「はっ、はい!ありがとうございます。直ちに手配いたします」
男は深々と頭を下げた。
「どのくらいで出来るんだ?」
「すべて手作業ですので一週間ほどお時間をいただければありがたいです」
「うむ。分かった。では、一週間後に」
「御意にございます」
そのやり取りの後、男はその場をあとにした。
アクライは立ち上がると、リラトのもとへと向かった。
現在リラトは、産まれたばかりの息子アイリと部屋で休んでいる。
リラトは産後の容体が少し悪く、と言っても微熱があるだけなのだが、心配したアクライの命令で休んでいた。
「リラト、入るぞ?」
「はい」
ノックと共に中へと入れば、ベッドで休んでいたリラトが起きようとしているところだった。
「良い、休んでいろ」
「申し訳ありません………」
「少し痩せたな」
「……そうですか?自分では良く分からなくて……」
小さく微笑む姿は、とこか儚くて。まるで消えてしまいそうだった。
アクライは、アイリを挟んでベッドに腰を下ろした。
「良く寝てるな」
「はい」
すやすやと眠るアイリに、アクライは表情を和らげる。
「まだ熱があるな」
頬に触れれば、普段より熱い。
「アクライ様の手、少し冷たくて気持ちいいです」
アクライの手に触れながら、リラトは淡く微笑む。
「そうか?少しはお前の役に立てるな」
「僕にとって、アクライ様が全てです。アクライ様と出会えて、良かったです」
「俺もだ」
アクライはリラトに軽くキスをし、部屋を出た。
それから数日後。
先日訪れていた男が、アクライを訪ねてきた。
「ご注文の品が出来上がりました。お納めくださいませ」
男は恭しく頭を下げ、豪華な布に包んだものを手渡した。
アクライはそれを受けとると、包みを開いた。中には小さな小箱があった。
その中身を確認すると、アクライはすぐにそれを閉じた。
「あぁ。注文通りだ」
「有りがたきお言葉、もったいのうございます。また何かありましたらお呼びください」
「あぁ」
男は深く頭を下げ、立ち去った。
それからさらに数日後。
リラトは体調も良くなり、起き上がれるようになった。
「リラト、少し外に出ない?」
そう言ったのはアナレスだった。
「外ですか?そうですね、ずっとベッドで寝ていましたから、体が少しなまってしまって」
笑ってそう話ながら、アのアナレスの誘いにリラトは二つ返事で頷いた。
「アイリは僕が見てるから」
「?アナレス様は行かれないのですか?」
誘っておいて、アナレスは行かないと言った。
「リラト。今ね、庭の花がすっごくきれいなんだ!ここへ来てずっと忙しくて大変だったでしょ?たまにはゆっくりして」
「?ありがとうございます」
首を捻りながらも、リラトはアナレスの言葉に甘えて庭先まで足を伸ばした。
久しぶりに歩くので、少し息が弾む。
それでも、庭まで出てくれば花の香りに笑みを浮かべる。
「アナレス様の言う通り、きれいに咲いてる………」
色とりどりの花を咲かせている花壇をしゃがみこんで見ていると、ふとこちらを近付く足音に気がついた。
顔をあげればそこにはアクライがいた。
「!アクライ様……」
「もう体は良いのか?」
リラトは、伸ばされたアクライの手をとり立ち上がる。
「裾が汚れてるぞ」
「え?あ!申し訳ありません。ドレスに慣れなくて………」
生まれてはじめて着たドレスは、裾が長くて動きにくいは歩きにくいはで、結構苦労していた。
「構わん。また別のを用意させる。それより、一人なのか?アイリは?」
「アナレス様が見てくださっています。ずっと寝ていたので、気を利かせてくださったみたいです」
にっこりと微笑めば、アクライは僅かに頬を赤らめ視線をはずす。
「そうか。それなら、少し俺に付き合え」
「!はい!」
アクライの誘いに、嬉しそうに微笑めば、アクライはリラトにキスをした。
恥ずかしそうにするリラトが可愛くて、ついついいたずらをしてしまう。
連れだって歩くのは久々のことだった。
ご機嫌なリラトに対し、アクライは何かそわそわしていた。
しばらく歩くと、一際花を咲かせている庭園へと出た。
初めて来たそこに、リラトは目を輝かせた。
「すごい!」
そこには、見たことのない鮮やかな花たちが咲き誇っていた。
「ここは俺と特定のやつしか入れないんだ」
「そんなところに、僕なんかが入ってよろしかったのですか?」
不安そうにするリラトに、アクライは淡く笑む。
「当たり前だろ。お前は俺の妃になるんだから」
「………あの。その事なんですが……」
「何だ?」
表情を曇らせるリラトに、アクライは首を傾げる。
「僕で、本当に良いのですか?アクライ様には他にもお妃様にふさわしいかたがいるのでは……んっ!」
リラトの言葉を最後まで聞かず、アクライは彼の唇を強引に塞いだ。
「ん……ぁ………ク…ラ……さ、ま……」
「お前に渡したいものがあるんだ」
「?」
とろんとした顔で見上げれば、アクライはごそごそとポケットを探る。
そして、何かを取り出すとリラトの左手を握った。
「リラト」
「はい?」
真剣な眼差しに、リラトはまた不安になる。別れを告げられるのかと。しかし、そんな不安はすぐに吹き飛ぶことになる。
「愛している。ずっと俺のそばにいて、俺を支えてくれ」
そう言って、リラトの薬指に指輪をはめた。
「!………本当に?本当に良いのですか?」
「もちろんだ。俺にはお前が必要だ」
「嬉しい。アクライ様……」
リラトは初めて、自分からキスをした。
「!リラト、あまりかわいいことをするな。抱きたくなるだろ」
「………アクライ様の望みなら」
真っ赤にさせて頷くリラトに、アクライは我慢できずその場に押し倒した。
その後どうなったかは、二人だけの秘密。



end
 

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