謹賀新年

□銀刹の騎士
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「まさか、年越しを戦場でするとは思わなかった」
 敵地を見ながらそういうのはアーネスト・ノースリード。
 まだ15歳になったばかりの少年だ。
 彼の回りには同じ年頃の少年たちがいた。
 一際幼いのが、銀色の髪をなびかせるきれいな少年だ。
 キラト・フィールドワークス。若干13歳にして、数十人の小隊を率いる隊長だ。
 雪が降る中、キラトたちは戦場にいた。
 しかも激戦地である最前線に、だ。
 ただ、彼らは子供だが、戦場には慣れていた。
「そうだな」
「うぅ〜寒い!」
「たいちょー、温めてー!」
「あ!俺も!」
 緊張感もなにもなく、和んでいる雰囲気に、アーネストはスッと彼らに手をかざした。
「そんなに寒いなら温めてやる」
 にっこりと微笑むと、彼らに火を放つ。
「ぎゃあ!?」
「あついあつい!!」
「焦げる!!」
「俺のキラに触れてみろ、次の任務で囮にするからな」
 戦場のど真ん中で、笑い声やら悲鳴がこだまする。
「ったくあいつらは……」
 そう呆れるのはナイト・サイナだ。
 彼は17歳で、この隊の最年長だ。
「止めるか?」
 ナイトに問われ、キラトはちらりとアーネストたちを見て、首を振った。
「別に良い。それほど緊迫した状況じゃないし。息抜きは大事だ」
「……それもそうだな」
 まだ幼い彼らに、戦場で戦うという行為は、精神的に辛いものがあった。
 最前線となれば、人の生死を間近で見ることになる。
 中には心を苛む者もいる。
 時々こうやってガス抜きをしないと壊れてしまう。
「ナイト」
「ん?」
「時間だ……」
 そういってキラトは小さく微笑んだ。
「アーネスト!」
 ナイトがアーネストを呼べば、アーネストはじゃれあいを止める。
「お前ら、集合!」
 アーネストの号令に、遊んでいた彼らはキラトを中心に集まる。
「この一年、お前たちには苦労を掛けた。これからも、お前たちには苦労を掛けると思う。それでも、俺を信じてついてきてくれるか?」
「当たり前です!」
「俺たちには隊長だけだ!」
「自分達の居場所は、自分達で守る!」
「隊長とならどこまででもいきます!」
「ありがとう、皆」
 そういって微笑むと、キラトは手を空にかざした。
「アース、ナイト」
「準備オッケーだ」
「あぁ」
 三人の魔力が急速に集まる。
「ちょ!?」
「隊長?そんなことしたら敵に……」
 高い魔力を有する三人が力を集中させたら、敵に自分達の位置を知らせることになる。
「大丈夫。結界は張ってある」
「お前ら、上見てろよ」
「カウントダウン始めるぞ」
 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!
 大空に、巨大な花火がうち上がった。
 色とりどりの、きれいな花が夜空を飾る。
 それを見た子供たちは顔に満面の笑みを浮かべた。
 今まで、薄暗いスラムにいた彼らは、空が広いことも、大地が繋がっていることも知らなかった。
 せめて、今この時間だけは、彼らに知ってほしかった。
 世界は広い。スラムでは出来ない経験を、彼らにしてほしい。
「すごい!」
「こんなの初めてだ!」
「きれい……」
 楽しそうにする皆に、キラトも笑みを浮かべる。
 皆が楽しそうにしてくれて、この計画を立てた甲斐がある。
「キラト」
 名を呼ばれて振り返れば、すぐ目の前にアーネストの顔があった。
「え……?」
 それは本当に一瞬のことで。
 触れるだけの、短いキス。
 皆が空に気をとられているすきに、アーネストはキラトにキスをした。
 頬を赤くさせるキラトに、アーネストは少し照れながら笑った。
「バカアース……」
「本当にな」
「え?」
「あ!!」
 キラトとアーネストが同時に声をあげた。
 ナイトがキラトを引き寄せ、あろうことか彼にキスをした。
 これまた一瞬の出来事で。
「ぁ…ん、ぅ…っ!」
 深い口づけ。しかも、キラトの口内に、ナイトの舌が入り込んだ。
 そのとたん、キラトの体がびくんっと跳ねる。
 ようやく離され、キラトは顔を真っ赤にして潤んだ瞳でナイトを見上げた。
「キスって言うのはこうするんだよ」
「っ!!………こんのバカナイトー!!」
 アーネストの怒鳴り声に、花火を見ていた子供たちは何事かとそちらを見やる。
「はっ!俺とやろうってか?上等だ。かかってきな、クソガキ」
 せっかくの花火も、アーネストとナイトのバトルで台無しだ。
「あ〜ぁ。また始まった」
「新年最初の喧嘩だね!」
「どっちが勝つかな?」
「俺副隊長!」
「じゃあ俺はナイトさん」
「隊長はどっちだと思う?」
「知るか!」
 キラトは顔を真っ赤にさせてそっぽを向いた。
 ぎゃあぎゃあと騒ぐ皆を横目で見ながら、キラトは願う。
 この笑顔が、いつまでも見られるように。
 彼らの笑顔を、護れるように、と。
 だけど、未来のことは分からない。
 だから、今はただ、彼らとの時間を大切にしよう。
 この一年が、皆にとって幸せであるように。
 

 

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