桜花乱舞

□第弐拾漆話〜悠遠〜
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遙か遠くに見えた幼子の姿。
あれは紛れもなく私――私である。


千景「それが蒼鬼姫と呼ばれた姫の姿か」


ふっ、と笑い私に刀の切っ先を向けた。
月に照らされた鋼色は妖しく煌めく
風が吹き始めると風間は紅色の瞳を細めて腰を元見た。


千景「――蒼鬼姫よ…貴様が持っているその刀…どんな刀か知っているのか?」


翡翠「何を言っている」


千景「ふん所詮は鬼の歴史も知らずに育たった者だったな…
貴様は…知る必要などありはせぬっ」


郷が焼けた時…兄上に持って行けと念を押されて持ってきた刀
名は確か【櫻華麟翔刀】だと後から聞いた。
この刀を持つ事で…何が在るのかよくわからない。



翡翠「御託は良い…さっさと決着をつけるぞ」



居合の構えを見せると風間も僅かに後退した。
冷たい殺気が二人を包み込む。
刹那、空気が動いたかと思えば…二人の間に居たのは――


天霧「止めなさい…風間、これ以上は私達の不利益を被ります」


静かな声で言い放つ天霧は翡翠の姿を見て
水色の眼を大きく見開いた。
そして目を逸らして今の主である風間の前に立ちはだかった。


風間「何だ…天霧…貴様は裏切り者を庇うというのか」


天霧「庇う等…しませぬ。ただこれ以上揉めてしまうと上に通達が行きます」


風間「ちっ」


天霧に諌められた風間は渋々刀を鞘に納めた。
そして踵を返して千鶴を抱えたまま門へ向かう。



――この侭では…千鶴が連れ去られる


――助けなければ。



ちりんちりんと刀の鞘についていた鈴が激しく鳴り始める。
何が起きているのかは判らないが…脳裏に過った総司の姿。


翡翠「力を貸してもらうぞ麟翔刀よ」


呟いて刀を抜けば刃は桜色に妖しく輝いていた。
煌々と翡翠自身の言葉が分かるとでも言っているように。


翡翠「逃がすかっ」


ドスッと剣先を地面に突き刺すと其処から
氷の結晶が出てきて風間の足元を凍らせた。


千景「何っ!?」


咄嗟に身を翻してかわそうとするが…それは叶わず
逃げる事が出来なくなっていた。


翡翠「千鶴っ…逃げろっ」


千鶴「はいっ」


担がれていた千鶴は飛び降りて私達の元へと走ってくる。
苦虫を噛み潰したような顔をした風間は霧となって消えた。



翡翠「よかっ…た――」



千鶴「翡翠さんっ翡翠さん」


総「大丈夫だよ千鶴ちゃん…翡翠は力を使い過ぎただけだよ」



何処かで、総司の声が聞こえたような気がした。
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