桜花乱舞
□第弐拾弐話〜血に狂う者〜
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春の陽気が京の都を照らす。
千鶴「翡翠さんっ暖かいですねっ」
翡翠「ああ…最近は色々とありすぎた。偶にはこういうのも善いだろう…なぁ?総司」
嬉しそうに笑いながら私と総司の横を歩く千鶴。
足取りが弾んでいるのはいいが…少し危なっかしい。
総「千鶴ちゃん君は危なっかしいからゆっくり歩かないとね。散歩だと思って楽しもうよ」
千鶴「…はい、すみません…」
総司に諭されて少し寂しそうな顔をする千鶴に私は彼女の頭を優しく
何も言わずに撫でた。
千鶴は少し吃驚していつもの笑顔に戻った。
ここ最近、滅多な斬り合い事件も起きないので治安事態は良好だと言えるだろう。
しかし今は巡察中であるから気を引き締めなければならない。
私達新選組の羽織を見て恐ろしい者を見たとでもいうような顔で裏路地にへと逃げてしまった。
翡翠「……雑魚だな…」
総「嗚呼…そうだね…僕らの姿を見て…逃げちゃうなんてさ」
翡翠「この羽織を着て巡察するのも早数年…困ったものだな」
千鶴「困ってるんですか?寧ろ目立って良いと思いますが…」
総「千鶴ちゃん…目立つことはいいかもしれないけど…
いざ、大捕り物とかなったとき…この羽織、凄く邪魔なんだよ」
総司の意見も一理あるが…何も言わないことにした。
千鶴は総司の話を真剣に聞いているし…邪魔をするのも後ろめたい。
総「まぁ…伊東さんは…この隊服に反対してるらしいけどね」
"伊東さん"と言った時、過ったのが山南さんの顔だった。…今、思い出すだけでも…あの博識野郎を殺したいと…思っている自分が居た。
千鶴「あ…あの翡翠さん…」
千鶴に声をかけられてハッとして彼女を見る。
彼女は心配そうに私の眼を真剣に見つめていた。
翡翠「すっ…すまない…」
総「ごめんね…翡翠…怒らせちゃったかな」
総司は私の頭を撫でると殺気が成りを潜めるのが分かった。
――――なんて、浅はかなのだろう。
伊東さんは現在畿内の方へ隊士を募集しているため…頑張っている…のかは分からないが
新選組の為に行動している同士…。それを殺そうとは…何を考えているんだ私は。
総「…そういう…悲しい顔はさせたくないかな…斬りたいなあ」
千鶴「同士を斬るなんて…冗談でも笑えませんよ…沖田さん」
翡翠「同士…か…」
ぼそりと呟いたその言葉は喧噪に混じって消えた。
兄上を含め、私達は伊東さんのことを快く思っていない。
平助は…どうなのか今一よく分からないが…。
…よくも悪くも此処は京都の市中…何時、誰に聞かれているか分からない。
ふと、生まれた違和感。
千鶴もそれを感じたのか周りを見渡し始める。
其処に居たのは
千鶴「――薫さん!」
総「ちょっと…!翡翠、ごめん千鶴ちゃんを追いかけてくる!」
私も総司の後を着いていこうとしたとき。
頭に鋭い痛みが走った。
池田屋事件と禁門の変と同じ…痛み。それは段々と激しさを増していた。
翡翠「追いかけなければ…」
痛む頭を抱えながら、私は総司と千鶴を追いかけた。