桜花乱舞
□第拾参話〜地獄道〜
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…あの後、私は自室に戻って…頭を冷やしていた。
どうにもならないことだから仕方が無い。
ただ、もう後戻りができない状態であるといえる。
翡翠「無能だな…私も。」
障子を開け放てば赤々と燃える紅色。
綺麗だな、と見とれることしかできなくて。
山南『私は…剣士として死んだも当然です』
…寒々しい風が部屋の中を吹き抜ける。
こうして、時間が過ぎていく中でも山南さんは苦しんでいるのだ。
存在意義を無くした…山南さん。
総「翡翠…?」
不意に名前を呼ばれて上を見上げてみれば総司が心配げに私の顔を覗きこんできた。
翡翠「総司…か。どうしたのだ?」
総「どうしたのだ…じゃないでしょ?翡翠…山南さんの腕はもう…治らない。」
総司は私に現実を突きつけてくる。
それはそうだ。
左腕がまともに動かなくなってしまった昨今…これ以上剣を握ることもできない。
戦場にいったって足手まといになるだけだ。
総「少し…歩いてきたらどう?そしたら心も少しは落ち着くんじゃない?」
翡翠「それも…そうだな。」
私は少しだけ、外を歩くことにした。
*
八木邸の屯所をすぐ出たところに静かに佇んでいる前川邸。
私は、周りをグルリ、と回っている時、山南さんが前川邸へ行くのを見かけた。
翡翠「山南さんっ…!!!!!」
私は声を振り絞って彼の名前を呼ぶ。
山南さんは私の声に気づいて驚いた顔をしていた。
山南「おやおや…西園寺君でしたか…。」
山南さんはフッ、といつもの穏やかな笑みをたたえていたーーーのだが。
何故か、その表情に私は違和感を感じることしかできなかった。
翡翠「山南さん…私に、私に何かできることは無いですか…?」
山南「そうですねえ……では、私と一緒に…前川邸に来ては頂けませんか?」
翡翠「前川邸…ですか。」
私は言葉を濁らせた。
前川邸といえば『新撰組』がいる場所だった。
其処は…決して近づいては行けないと…幹部らには釘を刺されていた。
山「……西園寺君…どうしますか?」
翡翠「行きます山南さん。」
ただ…この時、私は嫌な予感しかしなかった。
山南さんが…『アレ』に手を出してしまうのではと…危惧をしていたのだった。
千鶴「翡翠…さん?」