時代の遊子

□弐拾壱頁目〜忘却した記憶〜
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関ヶ原…それは天下分け目の戦と呼ばれ
後の江戸幕府を築く徳川家康と豊臣秀吉との戦いだ。


鶴丸「おおっと…こりゃあ驚きだ…綺麗に西と東に陣をとっているなあ」


頂上から見下ろす妾達はもうすぐ始まるであろう戦を静かに見る。
石切丸や今剣は平安以降の時代に興味津々で目が爛々と輝いていた。


今剣「みてくださいっ石切丸ったくさんひとがいますよっ」


石切「今剣、落ち着くんだこれは…歴史修正主義者から守るために僕らは此処にいるんだよ?」


石切丸に説かれた今剣は頬を膨らませて麟翔に抱き着いた。
無垢な朱色の瞳は麟翔を真剣に見据える。
僅かな表情の変化に気付いた今剣は問いかけた。


今剣「麟翔ー?どうしたのですか?かおいろ…よくありませんよ?」


離さないと云わんばかりに袴は強く握られて見つめられる。
麟翔は今剣の頭を撫でながら苦笑した。



麟翔「今剣…心配しなくてもよい。妾は大丈夫だ。石切丸の処へ行っておいで」



優しく白色の髪の毛を撫でると彼は頬を膨らませながら
渋々と今剣の方へと向かっていく。


後ろを振り向いてみれば…眼下に広がるのは…郷。
そう…かつて…今の主よりも二代前の主が暮らしていた場所だ。



『――徳川は、徳川は俺達の味方じゃなかったのか!?』



脳裏に過った主の悲惨な声。
村には火が放たれ逃げ惑う人々の声と悲痛な叫び声。
それは麟翔と五十鈴の耳にも未だなお残っていた。


薬研「…麟翔さん…辛いか?」


麟翔「はっ…忘却していたのか…?妾は…」


ただ、ただあの時は…主の守りたいという心に反応しただけなのに
その気持ちは刀であったときも同じだった
安穏が続けばよいと――もう、犠牲など無いようにと


五十鈴「約束を違えたことは…私も許しませんわ」


凛とした声が後ろから聞こえたと思えば五十鈴は藤黄色の瞳を細めながら
これから来るであろう豊臣の残党兵を見据えた。


五十鈴「…徳川家は私達…いえ、鬼を売るようなことはしませんわ」


彼女は眼下に広がる鬼の郷を視界にいれながら淡々と語る。
"鬼を売るようなことはしない"確かに五十鈴はそういった。


麟翔「慣れ慣れしく…語るな」


薬研「――っおいアンタ…そんな言い方は…!!」


薬研が麟翔に反抗しようとしたとき、五十鈴に肩を掴まれて静かにするように促す。
ふるふると力なく首を横に振る。



麟翔「…鶴丸、石切丸、薬研、五十鈴、今剣…お前たちは…戦の方を頼む…妾は…」



眼下に見える郷…のその畦道に敵が潜んでいることを視抜いた。
よくも悪くも歴史は歴史…。



麟翔「妾は…一人で…彼奴らを殺してくる」


刹那、麟翔の目が変わった。
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