時代の遊子

□弐拾頁目〜罪悪感〜
2ページ/3ページ

朝から心に燻る黒いものは麟翔の機嫌を悪くさせる一方だった。
寝付いたのはいい。しかし、同じ夢を何度も見てしまい寝覚めが悪かった。


麟翔「…今日か」


会いたくないと何度も何度も願っては心の中で強く摩擦が起きる。
会いたいのかと己に問えばそれは会いたくないと帰ってくる。
その繰り返しの中、いつの間にか再会の時が来てしまった。


薬研「…麟翔さん、大将が呼んでる」


麟翔「嗚呼…今行く」


どんな顔で会えばいいのか分からない。
疵付けた張本人が目の前に居るというのに…。
五十鈴はどうしてまだ妾を慕うのか


薬研「…鈴が光ってるな」


麟翔「五十鈴の持っている鈴と共鳴しているのだろう」


櫻華麟翔刀を作った叢雲木賊はとんでもないものを作ったなと思う。


――仲間が窮地に陥ったときにだけ、解呪できる。


昔にそんなことを聞いた気がする。
さて、何時の事だったか。


薬研「…連れてきたぞ大将」


麟翔「櫻華麟翔来ました」


大広間に並んでいるのは三条と粟田口の大将組。そして乱だった。
麟翔を見るなり厚が立ち上る。


厚「…どうして…アンタが…アンタが五十鈴を…!」


乱「厚駄目だよ、麟翔さんだって態と五十鈴を傷つけた訳じゃ無いっていち兄言ってたでしょ!?」


後藤「厚、ちょっと落ち着け」


彼らが厚を諌めると彼は麟翔を睨んで静かに悪態をついた。
"破壊神め"と。


リィン、リィン


鈴が激しく鳴り始める。
其れと同時に聞こえる足音。



今剣「ふふっ驚かないでくださいねっ五十鈴っ」


五十鈴「楽しみですわ今剣様」


声を聴いたとき、ざわりと何かが栗立った。
呼吸が浅くなって焦点も合わない。
視界がぐらぐらと揺れ始めて、今にでも倒れそうだった。


岩融「麟翔…落ち着くのだ誰もお主を責めぬ」


麟翔「ははっ…責める?妾を…?」



どうせ、責めるのだろう。
ほら、隣に居る粟田口だって妾を見る目が冷酷。
短刀嫌いとなったきっかけ、全ては自分自身が驕ったことによる罪。


今剣「あーるじっさまぁ!」


五十鈴「…お久しぶりですわ…主」


翡翠「ふっ…久しいな五十鈴」


主は五十鈴の頭を優しく撫でて嬉しそうに笑いながらそれを受け入れる。
笑い方も全てあの時の侭だった。



五十鈴「叢雲派の短刀…灯邑五十鈴です。
皆様方、お久しゅうございます…これからよろしくお願いしますね」



華麗にお辞儀をすると黄色の瞳が妾を見た。
そして一瞬口元に孤を描いて眉根を歪めて笑った。


五十鈴「麟翔姉様、お久しゅうございます。お体は変わりませんか?」


丁寧な挨拶が麟翔の精神を蝕んでいった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ