時代の遊子

□拾玖頁目〜過ち〜
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――麟翔姉様っ、止めて下さいっ。


麟翔「はっ…はぁっ…はぁっ」


頭の中に響く五十鈴の声。
昼間に薬研とのやりとりで過去の夢を見ていた。
如何して、如何して今更あんな夢を。
凍りついた世界に足元に転がる破壊されかけた刃。


五十鈴『…よ…かっ……た』


虚ろな瞳で手に着いた血で麟翔の頬を撫でた。
ぬるっと生暖かい感触が気持ち悪かった。
息を荒くしながら五十鈴は口角を上げて笑う。


五十鈴『ね…ぇ…さま…だめ…です…よ?』


麟翔『五十鈴っ、五十鈴っ』


彼女の…五十鈴の強さを過信していた。
自分自身が暴走した故に…起きた事件。
それ以来…麟翔は短刀と一切触れあわなくなった。


麟翔「時間の問題…だな」


耳につけられているヒスイの耳飾りにそっと手を触れる。
力を制御するためにつけられたその飾りは
五十鈴、朱漣、麟翔につけられている共通の飾り。



――持ち主の心の在り方で…力が決まる。



欲望が強ければ強いほど嘗ての人間の主たちは飲みこまれて朽ちて逝く。
妖刀と謳われ幻とされ…生まれてきた理由はなんだったのだろうと。



麟翔「……五十鈴」



いずれ彼女も此処に来ることになるだろう。
薬研は意味深な言葉を残して去って行った。


"近いうちに来るかもな"


その近いうちとは何時なのだろう。
明日か?明後日か?


今剣「麟翔っ。」


とん、と軽く肩を突かれて後ろから今剣が抱き着いてきた。
吃驚した麟翔は目を見開いた後、くしゃくしゃと今剣の頭を撫でた。



今剣「やっ…やめてくださいっ…麟翔っ」


麟翔「嬉しそうだな今剣よ」


岩融は現在、第二部隊で関ヶ原にいる。
関ヶ原に出陣すると聞いたときどうしてもあの時の五十鈴がよぎってしまう。


今剣「さっきですね、おてがみとどいたんです」


麟翔「手紙…?誰から」



今剣は大きな瞳を細めて笑った。
その笑い方が五十鈴に重なって後ずさる。
ぶわっと急に冷や汗を掻きはじめた。
どくり、どくりと心臓が不穏な音を立てて暴れ出す。


今剣「岩融からですよっいすずが、やってくるそうですっ」


麟翔「――――っ!?」



薬研の言ったことが早くも現実となった。
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