時代の遊子

□拾玖頁目〜過ち〜
1ページ/3ページ

鳥羽伏見から数週間。
特に時の政府からも出陣通達はなくいつも通りの生活をしていた。


朝日が顔を照らして眩しさに目を擦り目覚める。
岩融、今剣、石切丸は気持ちよさそうに寝ていた。
部屋にはまだ余裕があり…隅っこに置いてある二枚の布団。


麟翔「逢いたい…」


目を伏せて天下五剣の彼を思う。
声を聴きたいというのは…罪だろうか。


麟翔「本来ならば妾の刀派は」


三条ではなく、歴史に埋まった叢雲派。
本来ならば存在しない筈の刀派が如何して此処で寝食を共にしているのだろうと不思議になる。


?「…麟翔さん?」


可愛らしい声がしたと思い寝間着にから普段着に着替えて障子をあける。
そこには綺麗な青の瞳をした…少女と思しき者が立っていた。



麟翔「妾に何のようだ…名は」


乱「あっ…ごめんなさい…ボク乱藤四郎です」


藤四郎かと心で呟く。
あの大所帯の刀派…しかも短刀が多いと聞く。
そんな子供が何故…妾の下に来たのか不思議だった。


麟翔「粟田口の坊が…妾に何のようだ」


乱「……っ」


鋭く睨みつければ肩を揺らして視線を逸らす。
それでいい…それで。妾に近づくな。
その時後ろから肩を叩かれて振り向く。


薬研「そう殺気立たせるな麟翔さん。弟が申し訳ない」


乱「薬研兄さんっ」


麟翔「ふむ…薬研か」


薬研は眼鏡を上げると乱に視線で部屋へ戻れと促す。
乱はコクリと頷いて粟田口の部屋へと逃げるように戻っていった。


薬研「はぁ…麟翔さん…短刀嫌いも程々にしてくれ…」


麟翔「薬研は何故、妾に関わってくる」


薬研「…大将の愛刀、としてではなく…五十鈴の姉として俺っちはアンタを見ている」


五十鈴と名を出された途端。麟翔は徐に立ち上がる。
そして自身を抜いて喉元に刀を突き付けた。


麟翔「その名を出すな」


薬研「忘れていい名前じゃないだろう。アンタにとって五十鈴は妹見たいなものだ」


それは否定しない。
ただ…己がしたことは…赦されない所業。
何れ、五十鈴もこの本丸に来ることになるのだろうか。


薬研「……きっと、近いうちに…来ると思うぞ…」


薬研は意味深な言葉を残して去って行った。


それが…現実になるのは…もう少し先の話。



拾玖頁目〜過ち〜
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ