時代の遊子

□拾捌頁目〜幻ノ薙刀〜
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今剣「麟翔っどうしたのですかっ?」


本丸の縁側で座っていた麟翔は声をかけられて其方を向く。
内番が終わったのだろう今剣の頬には泥がついていた。


麟翔「こっちにおいで今剣」


軽く手招きをして彼を呼べば嬉しそうな笑顔。
ぱたぱたと走って隣に座った。


今剣「きょうですねっ石切丸とはたけをたがやしたんですよっ」



麟翔「楽しかったか?」



今剣「はいっとても、とてもたのしかったですっ」



朱色瞳を輝かせながら今日会ったことを語ってくれる。
微笑ましいと思いつつ耳を傾けていると粟田口の皆が一期と共に出かけて行った。


麟翔「仲がいいな粟田口は」


ふと、そう漏らした言葉は確かに今剣の耳に届いた。
先程まで嬉しそうに語っていた彼は表情に翳りを見せたのだった。



ぎゅっと、強く着物を握られて次に温もりが伝わってきた。
ぽたぽたと床に伝い落ちる滴。



今剣「うっうっ…うくっ…」



しゃくり上げながら、今剣は泣き始める。


――そうだ…兄弟の話は…。


彼は主…源義経と源頼朝の兄弟争いの折義経の守刀として過ごしていた。
無論…主の最期も…己が知っている訳で。



麟翔「今剣」



ぎゅっと縋るように腕の中で泣き続ける。



今剣「ぼくはっ…ぼくはっ…岩融にあいたいですっ…
岩融にあって…たくさん、たくさんおはなししてあそびたいですっ」



普段笑顔で周りを癒す今剣は決して泣き言を言わない。
だが偶にこうして…粟田口や兄弟を見てしまうと癇癪を起こす。



麟翔「…今剣、岩融はきっと来るさ…近いうちに」



背中を摩りながら空を見上げる。
西日は彼女らを照らしていた。




*




【鍛刀部屋にて】



翡翠「頼むぞ」


どこからともなく出てきた鍛冶部屋の妖精たちは配合が書かれた紙を見る。
そして審神者の顔を見てニコリと微笑んで作業に入り始めた。


翡翠は懐にあった手伝い札を掲げるとそれを見た妖精たちはせっせ急ぎ始めた。



キィン



金属音が響いて、完成したことを知らされる。
小さな足取りで抱えてきたのは一振りの刀。



翡翠「…顕現せよ、我の前に姿を現せ」



刀を抜いて刃が白く輝いた。
其処に現れたのは…大太刀よりも背が高い男士だった。



岩融「ほほう…主は小さいのう」



翡翠「…名は?」



岩融「ああ、失礼した我が名は岩融。武蔵坊弁慶の薙刀ぞ、よろしくな主よっ」



鍛冶部屋に岩融の笑い声が響いた。
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