時代の遊子
□拾参頁目〜主の存在理由〜
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加州「ねぇ、どういうことなの?前の主が…生きているって。」
翡翠「……加州…お前の前の主ーー沖田総司は…"鬼"として…生きている。」
麟翔「加州、お主の身はすでに池田屋で滅びた身。
その後のことを…何も、大和守から訊いておらぬのか?」
麟翔が尋ねると加州は唇をかみしめてそっぽを向いた。
…沈黙は肯定、何も聞かされていないのか。
翡翠「知らぬのも無理は無かろう…加州、前の主にあってどうするつもりだ。」
単刀直入に翡翠が聞くとキッ、と鋭い眼光を彼女へ向けた。
それは…真実を知らない…彼の悲しい殺気。
翡翠「……私の口からは言えぬ…麟翔教えてあげてくれ」
麟翔「主の…御心のままに。加州、外に来い。気になるのであろう?」
加州「……うん。」
*
池の水は静かに、その場に佇む。
我ら刀もまた…折れぬ限りそこに…永久に佇むのが宿命。
加州「で…。何を教えてくれるってわけ?麟翔サン。」
麟翔「加州よ、お主は何が知りたい?」
加州は、んー…と真剣に考え込む。
知りたいことなどただ一つの癖に、わざとそうした振りをするのは前の主譲りなのか…。
加州「…俺は…ただ、あの人に…愛されていたのかが知りたいだけ。
実際、池田屋で身が滅んでるから…其処までの記憶しかないんだよね。
早いところ…安定をとっ捕まえて聞きたいところだけど。
アンタが知ってることを全部教えて。」
麟翔「…よかろうて…妾が知っていることをすべて話せば…
お主は我が主に対する態度を変えてくれるのか?
主は…お主を特別大事に扱っているように見えるからな。
…無粋な争いは避けたい性分ゆえ…しかたがなかろう。」
そして、妾は彼に池田屋のその後を話し始めた。
労咳の発覚、そして変若水の投与による羅刹化、敬愛していたものとの別れ。
そして……決着の時。
全て、妾の知っている範囲で、彼に語りかけるように話した。
加州はずっとそれを黙って聞いているだけだった。
麟翔「…ということだ。加州よ。お主は…愛されていた。
前の主にも……な。安定は…お前が破壊されてからずっと…。
朧気にただ、ただ、堀川と和泉守と共に…思い出話に花を咲かせては…涙を流していた。」
加州「…安定……アイツ、ほんと馬鹿だなあ。」
加州はふっ、と自嘲気味に馬鹿といったがその声には嬉しさが少し混じっていたのだろう。
なんとなくではあるが…声音で分かってしまった。
麟翔「で…お主はどうする。加州よ。」
そう問えば加州は妾の目を真剣に見つめてきたのだ。