時代の遊子
□肆頁目〜忘れた筈の思い〜
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冷たい風が頬を突き刺す。
ストン、と地に足をついて麟翔はあたりを見回した。
港には船が止まっていて砂浜には"近代武器"と呼ぶべき大砲
そして、銃を構え錦の御旗を掲げた兵士。
相対して剣を握る兵士。
―――嗚呼、とうとう…来てしまったのか。
新選組が散った、函館に。
麟翔「妾には…到底、理解できないのだが」
寒々としたこの函館で戦争が起きた発端はのちに大政奉還と呼ばれるものからだった。
15代将軍徳川慶喜は反幕府体制が強まり戦が起こることを懸念して
天皇へ実権を返した。
そして、それがこの戦争の始まりであること。
鳥羽伏見で主は戦線離脱をした。
それ以後、主はそのことについて口を堅く閉ざしたままだった。
麟翔「目の前に起きていることーーそれを変えてはならないか」
こんの助から言われたことが脳内を反芻させる。
"時代の改変をしてはならない"
それは付喪神と化している刀剣達にとっては"主を見捨てる"という選択肢になるはず。
――改変を止めるために、時代に派遣されるのだ。
残酷なものだ…刀剣にとって、主は気高く、尊い存在で…
一緒に過ごした日々は到底忘れぬものなのだ
物思いにふけてふと、視線を移動させると岬の上で静かに浜辺の方を見る青年が一人、立っていた。
苦しそうに浜辺をみる、その瞳は憂いを帯びた…碧色。
?「兼さん…今、行きますから。」
聞き覚えのある声。
其処に居たのは…堀川国広
土方歳三の脇差でいつも、犬のように和泉守にくっついていた。
まさか、彼もここにいたとは、正直、驚いていた麟翔
麟翔「堀川…」