十人十色

□Pour the affection
1ページ/2ページ

燦々と照りつける太陽。
太陽の下で天音は手のひらを太陽へと翳した。


「うーん」


僕はマフィアの中では多分…無能な方だと思う。

昼間は常に睡魔が襲ってきて屋根の上で猫たちと寝ている。


今日も僕はいつも通り屋根の上で海を見ながらボーっと過ごしていた。


「ふぁぁ」


欠伸を大きくつくと、手に猫が頬を摺り寄せてくる。


――可愛いなあ。


猫はゴロゴロと喉を鳴らしながら撫でて、と懇願してくる。


「キミ達はイイ子だね」


言葉は通じないだけど、なんとなくだけど言ってることが分かるような気がする。

人と関わっているよりこっちの方が幾分かマシだった。


――天音、気持ち悪い…もう、関わりたくない。


僕は幼い頃家を出て…広津の爺ちゃんに拾われた。
当時から爺ちゃんが何の仕事をしているかは薄々感づいていた。

高校でもいつも一緒だった幼馴染ともうまくやっていけてた。



――筈だったのに。


『グルルル…』


『天音…なんで…狼になってるの?』


二年前の秋。文化祭が終わったとき…僕は呼び出されて襲われた。


―――お前は"異能者"なんだろう!?なんでそんなやつが普通に高校に通ってるんだ!?


異能者というのは一部の人間にしか発動しない特殊なモノ。薄々では感じていた。


自分が…それだということを。しかし、実際に力を使ってみて分かった。


――これは、使ってはいけないものだと。


そして鉄パイプで彼らが襲ってきた。


僕は必死になって幼馴染を鉄パイプから庇った…だけど、我慢の限界が来て。



『ガウッ』



爪で相手を切り裂いたとき、運悪く…幼馴染に当たってしまった。

それ以来、彼女は僕を見ると…明らかに避けるようになっていった。


高校も無事に卒業して今は屋根の上でのうのうと過ごしている。



「……厭な事を思い出した…」


何も考えまいとしていたのに…余分なことを考えてしまうのは僕の悪い癖


どうにもならない負の考え方。



「んぅー…眠いな」



伸びをして再び欠伸をすると、頭に何か重い感覚がした。


隣をみれば視界に入った橙の髪の毛。黒い帽子をかぶったその人は僕を睨む。



「あ、おはよー…ございます中也さん」



「おはよー…、じゃねェだろうが!手前ェ…」



「…忘れましたか?僕、昼間は弱いんですよー」



中也さんは僕を睨みつけながらため息をついた。
逆らうことができない唯一の直属の上司。
正直他の幹部の人とはかかわったことが無い。



「かといって、昼間の任務を蔑にする気か手前は」



「どーせ…また…書類云々でしょう…もーやりましたよ」



中也さんは驚いた顔をしながらため息をついた。


そして静かに僕の隣に座る。



「あーもう…ったく…」



頭をガシガシと乱暴に掻いた。

すっと目の前が陰ったかと思えば
中也さんは僕の頭を急に撫でた。


「ちょっ…中也さん…乱暴ですって」


「あァ?撫でられるのが好きな奴が何云ってんだ手前」


彼の笑った顔を見るのは好きだ


僕を魅了するその笑顔は…気づけばいつの間にか…ついつい、目で追ってしまっていた。


「へへっ…中也さん」


照れ笑いを浮かべるとげんこつがとんだ。


「…変な笑い方してんじゃねェよこの野郎」


「中也さん、お酒入ってます?珍しいですね此処まで絡んでくるなんて」



何時もなら僕を起こしに来るときしか絡んでこない。

上司と部下という関係ではあるがここまで僕に構ってくれる上司なんて早々いない。



「…手前の顔が…湿気ってたからだよ莫迦」


無愛想に呟いたその言葉は確かにストンと僕の心の中に落ちた。



―――どうして、この人は僕が欲しい言葉をくれるのだろう。



「月嵩ァ…手前はいつも通り寝惚け眼でくっさい台詞を吐いて俺を諄いときゃいいんだよ」


「中也さんのそういうところ、可愛いです。大好きです。愛してます」


「だから…こっ恥ずかしくねぇのか手前!」


ゴツン、と再び中也さんのげんこつが頭に入る。


「痛い…ですよ…ふぁぁぁ…眠い…」


「…寝ればいいだろ…」



そこで、僕の記憶は途絶えた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ