綴手記〜色彩ノ華〜
□恋慕
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『なぁ…近藤さん』
『なんだトシ…神妙な面持ちをして』
『彼奴らに…餓鬼ができたらどちらに似るんだろうな』
『なんだ…もうそんな話か…そうだなあ…私は…総司にも西園寺君にも似て欲しいものだ…
トシはどちらに似て欲しいんだ?』
『総司には似て欲しくねえな…西園寺に似て欲しい』
何時の頃だろうか…確かにそんな話をしていた気がする。
この時のあの人の胸中はどんなものだったのだろうと考えると…分からないと答える。
しかし…今、こうして…主の恋い焦がれていた人が目の前に居ると思うと…。
(複雑、なんだよなぁ…)
誰かに、懐かしい声で呼ばれ顕現した場所は…元新選組幹部の本丸だった。
呼び出したのはどうやら…国広らしく…久しぶり逢ったら逢ったで泣き付かれた。
「宜しく頼むぞ…和泉守兼定」
「嗚呼…よろしく頼むぜ…」
信頼されていることが声音の強さでよくわかった。
素顔を知っているのに…名前も知っているのに仮面で隔てられていて表情さえも読み取れない。
『彼奴らが…幸せになってれば…俺はそれでいい』
下戸な主が珍しく弱気になって呟いた言葉は何処か諦めに似た言葉だった。
「昔見たいに…話そうぜ?」
狐面に手を伸ばそうとするとパシンと乾いた音が響いた。
隙間から見える空色の瞳は鋭く俺を睨みつけていた。
「……堀川…済まないが部屋へ案内してやってくれ」
「あ…はい、主さん…。兼さん…案内するよ」
唇は強く噛み締められていて僅かに血が滲んでいた。
そして…空色の瞳は鋭く睨んだかと思えば…瞳には涙を浮かべていた。
「――――…昔と変わらねえじゃねえか」
*
「兼さん…此処が湯殿だよ。案内はこれで最後かな」
国広の案内は非常に分かり易いもので全体像が直ぐに把握できた。
どうやら同じ兼定である之定にも出会えたし…。
「そうえいば…奴らを見かけねえがこの本丸に居るのか?」
「いますよ…?でも…彼らは…今の主を良く思っていませんけど」
「だろうな…」
加州清光、大和守安定は共に新選組の剣と言わしめた沖田総司の愛刀。
性格も元主に似ているのだろう相当捻くれている。
「…まぁ…性格の一致はオレも人のこと言えねえけど」
短気で喧嘩早いところはまんまトシさんだ。
きっと…今の主の愛刀も何処かにいるのだろう。
「麟翔」
小さくその名前を呼ぶだけで心の奥がざわついた。