捧げもの

□水と油は交わらない
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目の前には組合のやつら。
どうやら交渉決裂したらしい。
私はマフィアや探偵社…挙句の果てには組合から狙われる始末。
今日こうして、港にいるのは…組合の狗共に呼び出されたからだ。

「どこにも属するのは私の性分じゃないのでな」

と何度も言っていたのに組合側の狗共はお頭の方がポンコツだったらしく、今に至る。


翡翠「っ…くそっ…中立と言ったはずなのだがな…
どうやら組合は余程、私の能力を手に入れたいみたいだな…
敵数が多すぎる…さて…どうしたものか…」


どこにも属さない…それが今回の仇となったか…。
力を使うにもここでは多くの犠牲者が出てしまう…
なるべく組合側には重傷者程度の疵を負わせて帰らせたいものなのだが…。

私の異能はただでさえ特殊――故に、どれを使えばいいか分からなかった。


相手の攻撃をかわしながら考えていると橙の炎が目の前を横切った。

そして、いつのまにか周りの敵は倒れていて…誰か来たのだろうかとおもって顔をあげる。
そこにいたのは


暁「なんだ、羽虫がわいていると思えば組合の連中か?…って、お前は西園寺じゃないか絶賛襲撃中か…?」

片手に炎を灯しながらマフィアの幹部――桐生暁が目の前に現れた。


翡翠「………桐生!なぜマフィアのお前が…芥川と一緒に私を狙いに来たか?」


マフィアの奴らも私の異能に興味をしめしているらしく実質狙われている。

今回も恐らく…任務か何かでここにきたのだろう。


暁「まあ、首領は敵に奪われるくらいなら我が手に、とお考えだな。」


翡翠「……否、無粋なこと言ってしまったな…助けてくれてありがとう感謝する」


暁「それだけお前の異能は特別ということだ。
おいおい、マフィアに感謝するな。それに私はお前を扶けたわけじゃあない。
組合は、マフィアの敵だからさ」


そう冷笑すると彼女は周りを見てため息をついた。
どうやら敵数の多さに呆れたのだろう。
そして私の疵を見てまた再びため息をつく。

暁「聞いて呆れる…さっさと囚われてしまえば…そんな疵負わなくて済むのにな…」


翡翠「囚われる?ふざけるな…私は……どちらにも相容れる気は無いぞ。」


暁「今のうちに好きに云っていろ、そのうち捕縛してやるさ。」


翡翠「相変わらず素直じゃないな桐生よ……
さて…組合供が銃を私に向けているな…
この数は手厳しい…お前はここから離れろ桐生」


暁「誰にモノを言っているんだ西園寺?
こういう害虫どもを一網打尽にするのが私の仕事だ。
お前こそ、その傷では危ないぞ?今日は見逃してやるから、早く太宰を頼るなりして避難しろ」


能力発動の準備をしようとして身構える。
すると桐生は離れるどころか私の背中に自身の背中を合わせてきた。
やはりこいつもバカなのではないか…と思っていると桐生は私の方をチラと見て口角をあげる。


翡翠「捕縛はされるつもりは無いな。
おいおい、バカにしてもらっちゃ困るぞ?私は回復もできる。
太宰に泣きつくぐらいなら自分でここの敵を一掃してやろうではないか…少し後ろに下がっていろ。
巻き添えを喰らうぞ」


火に油を注ぐと言えばいいのやらなんなのか桐生は喉を鳴らして笑い始める。


暁「クク、確かに泣きつくならば意地を通すな。その気持ちは解る。
そうか、お前は稀有な治癒能力も持ち合わせていたな。なら心配は無用だ。
私の異能はお前と相性は悪いが巻き添えを喰うほど柔ではない。
とりあえず面倒だから眼前の敵を一掃しろ、私もそうする」


そういって桐生も身構える。
彼奴の生意気加減はどうやら…いつも一緒にいるヤツから移ったみたいだった。


翡翠「芥川の生意気が移ったか…性格もまんま受け継いだのだな。
性根が腐っているのは芥川も桐生も同等だな。
さて…桐生、お前は目の前を囲む敵を頼む…殺してくれるなよ…平和主義だからな。
それに今一度、お前の能力を見ておきたい」


暁「何おう!?龍之介は生意気ではないちょっと頑固なだけの愛い奴だ!
それに私は腐っているが彼奴はちょっと純粋なだけだ、変な方向に。
っと、御喋りはここまでだな。は?マフィアに殺すなとは無理難題をいうてくれるな。
私のは異形の異能、対して面白くはない」




相当芥川に惚れていると見たが…今はそれどころではない…。
周りの敵をどのように一掃するか策を巡らせている。


翡翠「惚気は寄せ。気色悪い…。なに?殺すのは無理だと…。
マフィアは殺傷集団なのは重々理解してはいるが…如何せん狙いは私なのだ。
桐生、お前は命令で動いている筈さ…もともと組合が狙っているのは私だ…
この現場では私に優位性があるぞ?」


暁「監督だの優位性だのああ云えばこう云うな西園寺…はあ、解った論議しても面倒だ従おう。
だが云っておくが手加減は苦手だ半殺しで手を打て。私の異能は龍之介と同等にすこぶる殺傷能力が高いんでな。
そして早く帰って中也と酒を飲みたい」



殺傷能力が高いのは嫌でも知っている…あの芥川の攻撃は私の斬撃ノ章陸とスピードがほぼ互角…桐生の能力もそうだ。



翡翠「元来私も根が頑固なのでな…。
そっちの方が助かる。
手加減を覚えることは大事だぞ…同士討ちがあった場合ならどうする?殺すか?
否、お前の性格のことだ仲間を見捨てることはできぬはず…。
酒ならあとで濁酒でも送りつけてやる」



桐生は目を丸くして、口答えをする。


暁「まったく頑固者は困る。ふん、私のことを知ったような口で語るのが気に入らんが、一理あるな。
身内は流石に可愛い者さ。濁酒なんぞ土に飲ませるぞ。
私は梅酒かカクテルしか好まん」


濁酒を土に呑ませるのはいかがなものではあるが…おそらく相当酒によわいのだろう。



翡翠「…ああ、ならばこれからは関わらないようにすればよいか。
そうかそうか…では連絡先も抹消しておくぞ?よいのだな。
濁酒も飲めぬのか…お子様かお前は…。そうか…下戸か。
ならばあえて度の強いウィスキーでも送ってやろうか?」



暁「是非ともそうしろ。何とでも云えば良いだろう好かんものは好かんのだ。
ウイスキーなんぞ送ったら西園寺の名義で太宰に青森地酒の蟹田を送り付けて『
私の好み熟知しているなんて流石は西園寺くん!今夜は飲み明かそう』とか云われて終末路を迎えるぞ」



太宰と飲み明かすのは正直ごめんだ…。
あいつのことだからやりかねない。



翡翠「ああ、じゃあそうさせてもらう。今後一切連絡は止めてくれ。
太宰ならやりかねんな…まぁ…入水させておけばいいさ国木田がどうせ血相かえて助けに来るだろうしな。
下戸は下戸で楽しんでいろ…と…話題を変えるぞ。
お前は私の異能を見たことがあるか?」



私は異能を滅多に使わないし…桐生はマフィアにいるから…発動機会は私よりか幾分多いはずだ。

桐生は一つため息をついて


暁「見たことはない。中也に説明だけは受けたがな。
なるほどうちの首領がお気に召すだけのトンチキ異能だとは思ったのが素直な感想だな。
そしてすこぶる厄介だ」


中也…ああ中原とやらか以前普通に出かけていたら出先で鉢合わせしてそのまま先頭に持ち込んだが…
相手の逃げ足が速すぎて仕留め損ねたことを思い出す。


翡翠「中也…?ああ、帽子をかぶっているやつか。
あいつはなかなか強かった…が、私の足元にも及ばんな…さて…話が長くなったな…。蹴散らすぞ」



翡翠は両手を翳した。
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