綴手記〜色彩ノ華〜

□変わらぬ蒼空
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「そうか…父上と母上は――」


耳に響く命の合奏は続いていた。
麟翔は月を見上げながら呟く


"この時間が永久に続けばいいのに"


風が吹いて掻き消されたその願いは
翡翠の耳に届くことはなく…ただ、首を傾げて麟翔を見るだけだった。


「主よ、妾は貴女の刀として過ごしてきました」


「ああ、そうだったな。最初は…私の愛刀が意志があるものだとは思ってもいなかった」


「夢で、警告をしてましたから」



記憶を抹消されてから、同胞の鬼に出会うたびに
幾度と無くみた幼き頃の懐かしい記憶。
其処には確かに幸せはあった



麗らかな春の日差しに包まれて、昼寝をしたり
川の流れる音に耳を傾けながら静かに目を閉じて木々の葉が擦れの音を聞く。
色彩に彩られた山々は、次の命へと育む為実を落とし、動物が食べそれらを運ぶ。
白銀に染まった山は荘厳な風景を称えて静かに見守っていた。



「見せていたのは麟翔だったのか」



くすりと笑って彼女は翡翠の側に座りなおし
白い手を翡翠の頭へと伸ばし、髪の毛を梳いた。
慈しむようなその手は現世にいる兄を思い出す。



「――主よ、ひとつ、よろしいですか」



畏まった声に身を引き締めた翡翠は
肩をあげて、桜色の瞳を見つめた。



「何だ」



「主にとっての――、西園寺翡翠にとっての変わらぬ"空"とは何ですか」



翡翠の唇に瑠璃色の髪の毛が触れる。
旦那に直接なでられている訳でもないのにゾクゾクと背筋に走る。



変わらぬ"空"とは――なんだろうか。



たくさんの空を見てきた。青い空、灰色の空、夜明け前の空、日に落ちる空。
どれも、素晴らしく…ときには残酷にもきれいだった。


眺めるのは好きで、なきたいとき何度も見上げては声を殺して泣いていた。
それでも、そこにあったのは全て、全て新選組が関わっていることが確かだった。


馬鹿をやって副長に怒られたり…
怪我をして兄上や総司、千鶴を心配させたり…
たくさんのことをしてきた。



――それならば、私にとっての"空"は




「私にとっての空は"浅葱色"だ」



「……ふふっ、思ったとおりの答えですね」




東から日が昇り始める。
また新たな一日が始まろうとしていた。
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