綴手記〜色彩ノ華〜
□三日月宗近
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誘いの三日月
麟翔)はぁ…。
庭の見える縁側で、内番を終えた麟翔は一人、西に沈む夕焼けを見ていた。
前の主が亡くなってからはや何年が経つのだろうかーーそう一人ごちては、度々ため息をつく。
空には三日月が浮かびはじめていた。
?)何をため息ついておる麟翔?
誰が来たのか、今、声をかけてほしくなかったのだが…くるり、と後ろを振り向けば…。
久しぶりに出会った奴だった。−−−名を三日月宗近。
麟翔)…宗近…?遠征から戻るの少々早くないか?
宗近)はっはっはっ、思いの外、早く終わったからなぁ…麟翔よどうしたのだ?こんなところで。
相変わらず寛大な広い心を持っているなぁ…と感心しつつ、視線を西日の方へと戻した。
幾度となく、人を斬ったのであろうか。刀は人を斬るべきもの主の腕前次第で……刀剣達の宿命が変わるとでも過言ではない。
麟翔)妾は…血に汚れている…。
幾度となく、人を斬ってきた。その感覚は今でも鮮明に覚えている。
刃についた赤く咲く華は…彼女の心を少しずつ、少しずつ、削っていった。
正直その点では…三日月宗近がうらやましいと思った。
一度も血に塗れずただ、室内で黙って時代を見据え続けた彼がーーーーー私とは到底違う。
宗近)…俺は確かに実践ではあまり使われていないなあ…。麟翔、顔を上げて空を見てみてはどうだ?
今更何をーーと言いたげな口調は彼に誘われるまま上を見上げた。
西日はすでに沈み空には漆黒の闇の中に散りばめられた星々が小さく瞬く。
それに負けないように綺麗な三日月がぽっかりと、浮かんでいた。
麟翔は無数に輝き続ける星を見て静かに、頬から涙を流していた。
なぜ、今更熱い感情が流れ出るものなのかいつぶりなのだろうか。
こうして、彼の目の前で泣く失態などと…いつぶりだろう本当に。
宗近)…何時ぞやの…星祭…俺が足利家を出る前も…麟翔は泣いていたなぁ…。
平安時代の星祭…宮中で飾られていた麟翔と宗近はその当時もこうして並んで宮中の廊下から空を見上げていた。
涼風が頬を撫でる感覚ではたと気づく。
あの時もこのように彼が隣にいたのだ。
そう気づいたとき。ボロボロと無数のしずくが彼女のほほを伝い落ち着物を濡らしていた。
麟翔)……………っぁ…くっ…。
宗近はただ、黙って彼女を見据える。
麟翔はそのままボロボロと涙を流す。
彼は何かを考えふと、眉をひくりと上げた
宗近)…近う寄れ…麟翔…。
宗近の声の声に顔を上げ、近寄る。
するといきなり腕を引っ張られ、反射的に目をつぶる。
そして何かに包まれているなと感じ上を見上げるとーーーーーー
綺麗な薄青の瞳に…三日月が浮かんでいた。
麟翔)むっ…宗近っ!?
目の前に宗近の顔があり距離の近さにバタバタともがく麟翔。
しかし、体格差は歴然としていた。しっかりと腰に手を回されて、片手で頭を固定されてしまっているのだから。
宗近)…麟翔が泣くのは見ていられんのだ…見るたびに胸が苦しくなる…この感情を何というのであろうか…。
…視線が絡み合う、伝わってしまうのであろうか…今、麟翔の心臓は破裂しそうなぐらいだった。
宗近はそっと、顔を近づけて彼女のほほに伝う涙を舌で掬い舐めた。
三日月を背負ってくすりと笑う宗近は…聡明で、美しいと…ーーー天下五剣の名に相応しい出で立ち。
麟翔)むね…ちかっ…離してくれ…。
宗近)嗚呼…そうか分かったぞ胸が苦しくなる理由がーーーーーー。
鼻は触れ合う距離、彼の吐息がかかる。美しい目に視線を捕らわれてしまい目が離せない。
宗近)…麟翔…俺は好いているぞ……こうして愛を紡げることが…嬉しゅうて仕方がない…。
麟翔)宗近…人の話をきっ…。
ぴとっ、と人差し指を唇に当てられて素っ頓狂な顔をして宗近の端正な顔を見つめる。
彼は薄く笑み言葉を紡いだ。それを聞いた麟翔は顔を真っ赤にして固まってしまったのだ。
宗近)麟翔?麟翔?…固まっておるではないか…。こういう時は…。
麟翔の顎を掬い上げてそっと、唇に触れる。
ついばむだけの、優しい接吻。
麟翔は目の前の出来事にただただ、恥ずかしさと何とも言えない感情と葛藤していた。
名残惜しげにチュッ、と音を立てた
麟翔)…………むっ…宗近っ…。
宗近)…麟翔…愛しておるぞ…平安(昔)も現在(今)も…な。
三日月と星々を背負い…薄く笑う彼は長年の思いをここでつなぎとめた。
完
オマケ
今剣)なっ、なにもみえないですよう。いわとおしっ…。
岩融)…お前は見ちゃいけないものだ。
鶴丸)しっかし…宗近の奴…やっとかよ…。平安から思い続けてたとかすげぇわ…
石切)これぞ愛の力ってやつかな?ああ、祈祷しないとね彼らの為に。
小狐)主様も…きっとお喜びになるでしょう…。