祠堂卒業後(未来捏造)

□二度目の蜜月
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 ボストンのローガン国際空港からバスに揺られてブルックラインという町にある受け入れ先の学校へ。そこでぼくは高校生たちはと別行動となる。
 この学校と隣接するカレッジでは学生だけでなく一般の語学留学をうけつけているカリキュラムがあって、ぼくだけそっちに通うことになる、と事前に説明は聞いていた。
 確かに、高校を卒業してもう三年目、いくら英語のレベルが高校生並(もしくはそれ以下?)といってもハイスクールの授業を一緒に受けても意味はない。というか、アメリカのハイスクールの授業内容なんて知らないけれど、科学だとか数学だとか、すっかり忘れててついていける自信なんてかけらもない。だから、それについては納得していたし文句どころかありがたいくらいだ。
 高校生たちがレクチャーを受け、ホストファミリーに引き合わされている間、ぼくはまるで公園のように広々とした、気持ちよさそうな芝生の敷き詰められた中庭に面した部屋で待たされていた。
 授業中なのだろうか。遠くから子供の声が聞こえる。
 その声につられるようにぼくは開け放してある、中庭に出ることのできるドアに近づいた。
 勝手に出歩くとまずいかな。でも、この中庭なら通された部屋も見えるし、誰かがきたらすぐ戻ればいいや、とぼくは芝生の上に足を踏み出した。 
 ぐるりと視線をめぐらした先に、歩く人影をみつけ、息を飲む。
 視線を歩いてくるその人に固定したまま一歩を踏み出した。
 自分の目を疑うようなことはしなかった。
 だって、間違えるわけ、ないのだ。
 でも、どうしてここに?
 踏み出した一歩はどんどんと早足になる。
 近づいてくる人影もぼくに気付いて足を速める。
 顔がはっきりと見える距離になり、満面の笑みを浮かべたその人は、大きく腕を広げた。
「託生っ!」
「ギイっ!!」
 どうして、と思いながらも、ぼくは迷うことなく、その腕に飛び込んだ。 



 その後、戻ってきた引率の先生にギイを紹介され、まるで初対面のように振舞うギイに、ぼくも「一年間よろしくおねがいします」と頭を下げた。
 なかなか頭を上げられなかったのは、笑いを噛み殺すのに必死だったからだ。
 基本的にホームステイというのは、受け入れてくれる学校に通う同じ歳頃の子供を持つ一般家庭をホストファミリーとし、その家族の一員として一緒に生活するのものだ。
 けれど、ぼくは高校生じゃないので、その原則から外れるとは聞いていたが、まさか、一人暮らしの大学生の家に住まわせてもらうなんて、ましてやその相手が、ギイだなんて思ってもみなかった。
 ぼくのスーツケースをがらがらと引いていたギイは、一台の車の前までくると、そのトランクを開けた。
「これ、ギイの車?」
 佐智さんの愛車とは対照的に、ごくごく普通の、セダン、って言うんだっけ? 日本でも良くみかけるようなデザインの、白い車だった。
「そ。リムジンじゃなくて悪いな」
 久しぶりに見る鮮やかなウインクに顔がぼっと熱くなる。
 助手席のドアを開けられて、おとなしく乗り込んだけれど、アメリカって右側走行なんだよね。普段父親に乗せてもらっている時と違ってなんだか落ち着かない。
 窓から見える建物や道路の名前なんかを説明してくれるギイの声も頭に入ってこない。
 そんなぼくを察してギイはハンドルを持ったまま、まぁいいや、と笑った。
「街は明日ゆっくり案内してやるよ。まずは家でいいだろ? あ、それとも腹減ってる? なんか食ってくか?」
「ううん、すいてない」
 というか、驚きの連続で空腹を感じるひまもなければ、胸がいっぱいで食事なんか入りそうにない。
 ぼくの答えにギイは了解、と笑ってアクセルを踏んだ。


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